異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~
決着 対ドラゴン戦 そして新たな敵
この戦い、唯一の目撃者であるスイカ・ザ・ガジェットさんは、こう語る。
―――-わかりませんでした。
彼女は、アキラ・クズ氏から避難を指示された後に一度は現場から離れるのだが、決して安全とは言えない崖の上で両者の戦いを見届ける事にしたそうだ。
そんな彼女が言う「わからない」とは?
――――アキラさまは最後にドラゴンの脚部に飛びつきました。 こう両手両足を広げて――――
しがみついた?
――――はい、そうです。頭を地面に向けて、逆さかの状態でした――――
その直後に「基本的関節技 ヒールホールド」と叫んだそうですが……
――――はい、それだけです。飛んで、しがみつく、私の目にはそれだけにしか見えませんでした――――
なるほど。それだけで、ドラゴンが苦しみ始めて、倒れた……と。
――――えぇ、 まるで断末魔のような絶叫が響いてました――――
冒険者組合業界新聞 冒険新聞(日刊)
新たな竜殺し アキラ・クズに迫るより、一部抜粋。
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ヒールホールド
それは、足への関節技でも危険とされる技。一部の格闘技団体では禁止とされる場合すらある。
本来は、自身の足を相手の太ももに絡ませ固定。腕で相手の踵を抱え込み、捻る事で相手の膝部分にある靭帯に強い負荷を与える技。 最悪、靭帯断裂の危険性も孕んでいる非常に危険な技だ。
だが、ドラゴン相手にヒールホールドは敢行した人間は過去にいないだろう。
明は飛翔。飛び上がると同時に体を反転させた。
頭を地面に、脚を空に向けると、ドラゴンの膝になる部分に張り付いた。
ドラゴンの脚部。それは、まるで巨木にごとき太さだ。
明は、ドラゴンに膝上に脚を絡ませた。
 しかし――――
  当然だが、ドラゴンの踵に腕が届くはずはない。
だから、明は、ただ――――  両手で膝下の部分を抱きしめ――――
下半身はドラゴンの膝上を、上半身でドラゴンの膝下を固定して――――
自身の体全体を捻る事でドラゴンの膝を捻る事を可能としたのだ。
世の中には我慢強い人間がいる。
痛みに強い人間がいる。
関節が異常に柔らかい人間もいる。
痛みとは平等ではないのだ。
だが、しかし――――真に関節が深々と極まった時、関節技はシンプルに痛い。
関節技の痛みは全ての人間を平等にしてしまう。
――――否。 平等なのは人間だけではない。
膝という器官がある限り、それはモンスターであろうと、最強と言われるドラゴンであろうと―――ー
関節技の痛みは平等に訪れる。
明はドラゴンに対して、こう言った。
「膝の靭帯が断裂している。人間以上の英知とやらがあるなら、お前らのドラゴンにも医者くらいはいるだろう。早く医者に見せろ。後遺症が残るぞ」
『ぬぐぐぐ……』
ドラゴンの口から出たのは痛みの呻きだけではないのだろう。
屈辱が混じっていた。
だが、明の言葉が正しいと判断したのか、巨大な翼を広げてバサバサと羽ばたき飛び去っていく。
最後にボソリと『この屈辱、決して忘れぬぞ 人の子よ』と剣呑な言葉を残していた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ドラゴンの姿が見えなくなると明はドッタとその場で倒れて、空を見上げる。
「……疲れた」
流石に明と言えども、ドラゴンを相手に激しい疲労とダメージを受けている。
竜の息吹により、軽度のヤケド。
踏みつけによって飛ばされた石礫を全て回避できたわけではなく、全身に打撲がある。
なにより、ドラゴンのパワーに対抗するために使用した瞬発力の代償として、心肺機能に過度の負荷を与ええている。
明は、そのまま目を閉じて眠りたくなっていた。
しかし「アキラさま!」と彼を呼ぶ声がした。
見上げれば、崖の上にスイカの姿が見えた。
「おいおい、安全な場所に避難しろって言っただろ」
そう呟いた明の顔は言葉と裏腹に柔らかい表情だった。
しかし――――
「あっちゃ、コイツは予想外やったわ」
声がした。それも関西弁。
唐突に、明が気配を感知することすらできないほど唐突に現れた少年。
それは依頼者の少年だった。
「まさか、摂津流の妙技を見せずドラゴンに勝つなんてなぁ。実力を見るのにちょうどえぇスパーリング相手と思ってドラゴンを召喚したワイの立場がないで」
疲労困憊にも関わらず、明は立ち上がる。
「お前が、ドラゴンの召喚者……いや、それよりも――――
どうして、お前が摂津流を知っている?」
依頼者の少年は無言で答えない。
返事の代わりか? 今まで彼が、消していた気配が、殺意が、敵愾心が解き放たれた。
(これほどの感情を俺を相手に隠し通していたのか? なるほど――――)
コイツは、さっきのドラゴンなんて問題じゃないくらいに――――
強い!?
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