異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

ワイバーン退治開始と黒幕登場

 
 ――――翌日――――

 宿屋で一夜を明かして、依頼者に会いに行く。
 依頼者は指定した場所は、町から1時間。 地図で確認すると依頼者の家らしい。
 森の中、他の家から少し離れた場所だ。

 「おうきに、おうきに! おたくら等が依頼を受けてくれた冒険者やろ? あんじょうよろしゅうお頼みもうします!」

 関西弁だった。 
 それもコテコテで、関西の人でも使うか、どうかのレベルの……
 果たして、異世界にも関西が存在しているのだろうか? それとも関西が異世い……

 いや、止めておこうと明は依頼者を観察する。

 依頼者は黒髪の少年だった。……と言っても明より1歳か、2歳くらい年下に見える。
 まるで犬のように人懐こい。 だが、耳や尻尾を見る限り、犬の獣人ではないみたいだ。
 何よりも重要な事だが、彼に敵意、悪意、殺気、それらの感情はない。

 「それじゃ、家の中に入ってもろて、依頼について説明させてもらいます」

 「ほな、どうぞ」と促され、明とスイカは家へ入った。
 家の内部を見る限りでは1人暮らしのようだ。 
 人里から離れた場所での少年の1人暮らし。
 どうやら、訳ありの様子だ。

 「実はワイ、画家を目指してるんや」

 少年が指差した先には絵が飾られている。
 1つ、2つではない。 壁に狭しと掲げられている。

 「わぁ!」とスイカ。
 明も珍しく「ほ~」と感情を動かされた。

 「絵の事はわからないが、物に込められた感情を読み取るのは得意だ。これは……希望を描いている?」

 明の評に少年は喜んだ。

 「流石、冒険者さんやな。絵のテーマまでわかるやなんて」
 「いや、感覚的なセンスで読み取れれば美術への造詣が深いって事になるんだろうけど、俺のは訓練された技術だから……」
 「はっはっはっ、おかしなことを言う。技術が不要な芸術なんて存在しないやろ」

 「そういう意味じゃないけど……」と口ごもりながらも明は笑った。

 「さて、肝心の依頼なんやけど。実は、この先にある崖にワイバーンの幼体が大量発生したみたいなんや。 ここら辺までよーゆーで飛んできてかなわへん」

 少年が指差す方を確認すると、スイカは「すいません、地図で確認してもいいですか?」と机に地図を広げた。

 「この家が、ここだとして……崖はここですね」
 「おぉ、せやな。姉ちゃんもシャッキとしてカッコええなぁ」
 「えっ私、カッコいいですか?」
 「おう、プロちゅう顔してるわ。そのプロ意識を勉強させてもらないとアカンわ」

 実際のスイカは過剰に誉められすぎて「ぐへへ」と顔を崩していた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「よし、依頼者のためにがんばりましょうね!」

 少年の家を出て、ワイバーンが大量発生しているという場所を目指す。
 誉められ慣れていないのだろうか? いつも以上にスイカのテンションは高く、ルンルン気分でスキップをしている。

 「あぁ、あの少年のためにがんばるのは良いが、目的を忘れてないか?」
 「まさか、まさかですよ。ワイバーン退治でしょ? 忘れるわけないじゃないですか!」
 「いや……高確率で異常が起きる依頼の完了が目的であって、ワイバーン退治以上の困難が起こるとスイカもわかっていると思っていたのだが……」
 「そうでした! でも、何が起きるのでしょうか? 現場に近づいて、何かわかりましたか?」
 「いや、距離は関係ない。 しかし……」

 (おかしい。俺は依頼者の深層心理まで踏み込んだつもりだったが、会ってみれば敵意や殺気とは好青年だった)

 明は、考えを巡らせる。

 (もしかしたら、依頼者は他にもいる? ……いや違うな。たぶん、あの少年は――――)

 明の思考が答えを導き出す直前、スイカの声が響いた。

 「前方上空に敵影発見。数4。ワイバーンが来ます!」

 スイカの言うとおりだった。空に4体の爬虫類が見えた。
 臨戦態勢に入っていない。 殺気があれば、明は感知している。
 4体は空で旋回しながら、こちらの様子をうかがっている。
 やがて、明たちを餌だと認識したのか――――

 4体から強烈な殺気が発せられた。

 「コイツは凄い。今までいろんな野生動物と戦ったが……上に来る野生の殺気だ。……けれども怖くはない」

 上空から一気に急降下。 ワイバーンは明を襲う。
 その顎門あぎとが―――― その鉤爪が――――
 明に接触する直前にワイバーンたちがバランスを崩したかのように地面へ激突していった。

 「やっぱり幼体か。摂津流を妙技を見せるほどの戦闘力はないらしい」

 明は、顎門や鉤爪が自身に接触する直前、それらの箇所を掴むと僅かに力を加えて捻ったのだ。
 ただ、それだけの事。しかし、刹那に等しい時間で行われた瞬間芸であり、急落下中だったワイバーンたちは、自分たちの身に何が起きたか分からずに――――肉体のコントロールを失う。
 それがワイバーンたちが墜落した理由だ。
 軽々しくワイバーンを倒した明だったが、1体は絶命していなかったようだ。
 最後の力を振り絞り、怪鳥の叫びによく似た異音を発する。

 「やれやれ、仲間を呼んだか。 これは面白くなくはなくなってきたぜ」

 ・・・
 ・・・・・
 ・・・・・・・・

 明がワイバーン退治を開始したと同じ頃、依頼者の家では――――

 「はい、ご注文どおりにアキラさまを呼び寄せました」

 少年は、鏡に向かって話していた。
 ――――否。
 鏡は不気味に捻じ曲がり、1人の人物を映し出す。

 「うむ、楽しみだ。 あぁ、楽しみだなぁ」

 その人物は、まるで独り言のように――――歌うように――――繰り返した。
 それを聞く少年は、深く頭を下げて――――

 「貴方の幸せが、ワイ……失礼。私の楽しみです……魔王様・・・」 

 確かにそう呼んだのだ。 鏡の向こうの人物へ向けて……

 魔王と


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