異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

武器武具屋での交渉と依頼

 明とスイカはワイバーン退治の依頼を受けた。
 オリオ嬢は渋い顔をしていたが……
 そもそも、明の実力はレベル99と知っているので、ワイバーンの成体が相手でも遅れを取る事はないと判断したのだろう。
 依頼の受諾を渋々ながらも認めてくれた。
 そして、帰り際――――

 「そうだ、スイカさん。ゴブリン退治依頼完了の証拠品、確認が終わりましたので引き取っていただいても大丈夫ですよ」

 スイカは言われて思い出した。強化種と言われるゴブリンに襲われた日のこと――――
 そして明に助けられたこと――――
 証拠品として30本もの剣を村まで運ばなければならなかった事を……

 その後、町へ戻る道中に転送屋さんを探して組合ギルドへ転送して貰ったのだった。

 「どうします? あの量だと一度の持ち帰るのは不可能だと思います。素材としても高値で取引が可能な品物のようですので、ギルドの個人倉庫と契約するというのは?」

 スイカはすがるような視線を明に向ける。
 「大丈夫、大丈夫。あの鎧だったら俺も運ぶの手伝うよ」と明の返事に安堵した。
 受付嬢の申し出を断り、30もの剣と鎧を返却して貰った。
 その足で明たちは、組合ギルドの建物内にある武器防具屋に向かう。

 ざわ…… ざわ……

      ざわ…… ざわ……

 やはりというか――――
 30ものゴブリン用の鎧を背負う男は注目を浴びる。
 それは、海千山千の冒険者たちが相手でも同じことだ。

 「おい、アイツ何者だ? あの鎧は一体なんだ?」
 「隣の女が持っている短剣の束……全部が名刀だぞ」
 「あの素材はもしかして……ここで交渉してみても大丈夫だろうか?」

 いや、修正しよう。
 冒険者とは、好奇心の塊がそのまま成長したような存在。
 その視線に遠慮などは存在しない。
 スイカは視線を避けるように顔を下げるが、隣の明は動じた様子がない。
 それがまた、冒険者の注目を浴びることになるのだ。
 そんな、こんなで、スイカの行き着けてである武器防具屋にたどり着いた。 

 「ここの店主は職人気質で無愛想。されど、腕はよし」

 冒険者から評判の店だ。
 その無愛想で職人気質なはずの店主が驚きの声を上げた。

 「なんじゃ! こりゃ!」

 「あっ、すいません。こんな大荷物でご迷惑を……」

 「いいから早く店に入れ!」と怒鳴られて、スイカは急いで店内に入る。
 しかし、明は背負った荷物が大きすぎて出入り口に入れない。

 「えぇい! 仕方がない。裏に搬入口がある。すぐに案内するから小娘は店で待っとけ!」

 店主は、明の背中を荷物ごと押して急がせた。

 「まずは鎧か?それとも剣か?」

 搬入口から店内に入ると、店主が問うてきた。

 「じゃ、剣から見て……」

 「よっしゃ! 剣じゃな!」と店主は明の言葉を遮り、すぐに行動に移す。
 一本一本を正確に、そして素早く鑑定は始めた。
 やがて、全ての剣の鑑定を終えると――――

 「コイツはとんでもない剣を持ってきやがった。売りか? それとも潰して素材にするか?」

 「えっと、売りを希望しているのですか」
 「よし! 買った! 金額は、このくらいでいいか?」

 提示された額にスイカは驚く。
 それは、中級冒険者の年収を想定したスイカにとって衝撃的な金額だったからだ。

 「一振り、300万ギル。合計で9000万ギルでどうだ?」

 たった一本の剣が初心者冒険者ルーキーの年収と同等の額。
 その合計金額はスイカのキャパシティをパンクさせていた。

 「すげぇな。コイツは、おっ、おっ、おっと武者震いが止まらねぇ。こいつを素材にすりゃ、勇者様や国王様にだって献上できる剣が生まれちまうぜ」

 無愛想で職人気質の店主ですら、ニンマリと感情豊かにしてします。
 それほどまでの素材だったらしい。
 しかし――――

 「それ以上に、ヤバイのが鎧の方だ。どれ見せてみい!」

 言うが早い。 店主は鎧の鑑定を始める。
 「こりゃ、凄い! こりゃやばいぞ!」と絶叫しながら鑑定を進めていく。
 それを終えると―――― 

 「ふぅ……堪能させてもらったわい。しかし、一体どこでこんな物を拾ってきやがった。 さすがに魔法を弾く素材なんて、ワシでも扱うの初めてじゃ」

 店主は3本の指を立て「これでどうじゃ?」と続ける。
「俺はこの世界の相場がわからない。交渉は任せる」と明はスイカに任せる。

 「はい、それだと少ないと思います。もう少しだけ上げてください」
 「なぬっ! コイツは驚いた。物の価値がわからぬお嬢さんと思っていたが、見直さないとな。これでどうじゃ!」

 店主は4本の指を見せた。

 「はい、じゃ、それでお願いします」

 「くっ~ 冒険者にしておくのは惜しい才覚じゃなぁ。ほれ、剣の4倍で3億6000万ギル。合計で4億5000万ギルじゃ! もっていけ泥棒めっ!」

 店主は奥の金庫を開いて、大金を机の上へ落とした。
 それを見たスイカの心情は――――

 (剣と同じ値の300万ギルと思っていたら3倍でしたか)

 明は、それを受け取らずにこう告げた。

 「ちょっと待ってくれ、1つ頼みがある。その素材で俺の防具を作ってほしい」

 これは、スイカとも事前に話し合っていた事だ。
 冒険者として生活するなら、それ相当の装備を整える必要があると結論が出た。

 「むっ、防具か? しかし、コイツは魔法を全て弾く素材じゃ、味方の支援も回復呪文も弾くぞ。ワシは盾にする事がお勧めじゃが」
 「いや、苦手なんだよ。魔法で動きが良くなるとか、痛みがなくなるってのが……まるでドーピングだ」
 「よくわからんが、依頼主の希望は叶えよう。どれ、服を脱げ。採寸は取らせてもらうぞ」

 その場で明は、学生服を脱ぎ捨てた。そのまま、上半身をあらわにした。

 「ほう、なるほど。魔法による強化を嫌がるだけはある。こんな体は、あの英雄と同格……あるいは、彼以上か」

 店主は採寸を終えると、サラサラと紙に鎧のデザインを書いて見せた。

 「とりあえずは、軽装型の鎧じゃな。これなら、素材は2つで済むから2400万ギル相当の鎧じゃな。それでも、この町でこの値段の鎧を装備した者は他にいないぞ」

 「これを頼んでいいか?」と明はスイカに聞く。

 「はい、もちろんです。元々、これらの素材の所有権はアキラさまにあるので、私がどうこう言うものではありません」
 「そうか、それじゃ頼む」
 「毎度あり! 1週間後に取りに来な。超特急で仕上げてやるよ」

 そのまま店を出ると――――

 「これを受け取ってくれ」

 明は4億もの金をスイカに渡した。

 「俺がこの金を持っていても使い切れないし、価値がわからない。だから、スイカに任せたい」
 「いえ、最初はそのつもりでしたが……流石に額が額だけあって、持っただけで膝もガクガクと震えているのですが……」

 ダジャレだろうか? 一瞬、ツッコミを入れたほうがいいのかと明は考えた。

 「この金額がアキラさまからの信頼の証を思って有効活用させていただきます」

 スイカは快く大金を引き受けたのだった。

 
 

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