異世界ファイター ~最強格闘技で異世界を突き進むだけの話~

チョーカー

選別の依頼はワイバーン退治 でも、しかし――――

 明は依頼書を裏返し、テーブルに並べる。
 それを見ていたスイカは、ある異変に気がついた。

 (あれ? 依頼書って、こんなに新しい感じの紙だったかしら?)

 さっきまでシワシワだったはずの依頼書からシワが消えていた。
 その疑問にきづいたのだろう。明は――――

 「今、素手で依頼書に触れるなよ。気を通しているから下手に触ると指が切れ落ちるぞ」

 その言葉にスイカは伸ばしていた手を引っ込めた。

 「さて、この世界にも武道があるなら、こんな話を知っているか?

 ――――格闘技を始めると超能力が使えるようになると言う話を」

 さて、時代は戦国乱世の時代……ではない。
 徳川家康が天下統一を果たした江戸時代。
 250年の天下泰平の世の中に移り変わると、武の必要性が失われていった。
 多くの武道武術の道場が看板を下ろす時代に生き残りをかけた男たちの戦いがあったのだ。
 その方法は宗教の取り入れ。

 超常じみた神技の数々。 

 手を触れずに相手を投げる。 日本刀の上に素足で立つ。 堅い物体を素手で破壊する。

 それらが武を玉石混交の品物に変えることになるとは、その時代は誰も想像すらしていなかったのだ。

 だが、しかし―――― 少なくとも――――

 摂津流には本物がある。

 『摂津流読心術 流濁りゅうだく

 明は、一枚一枚、依頼書に手をかざしていく。

 「摂津流の特徴には、殺気や悪意の感知と言うものがある。だから――――

 依頼書から辿って依頼人の深層心理の奥地まで読み取る」

 スイカには明の体が光っていくような錯覚に陥る。
 下から吹く風で髪は乱れ、その手からはビリビリと電気のようなものが見ている気がする。
 そんな幻想は長く続かず――――

 「これだな」と明は依頼書の中から一枚の紙を掴んだ。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 「ワイバーンって言うのは、ドラゴンと何が違うんだ?」

 明が選んだ依頼書の内容はワイバーン退治だった。

 「何が違うのかと問われましても、全く違う生物ですよ?」
 「……そうなのか」

 魔石を利用して作られた自動模写機からは写真のような精密な絵でワイバーンが描かれている。
 明が言う通りだ。ドラゴンとワイバーンの違いはわからない。
 この世界の住民でしかわからない、極めて少ない差異でしかないのだろう。 

 「それでワイバーンって言うのは強いのか?」
 「もちろん、強いですよ。 もちろん、ドラゴンほどではありませんが……」

 スイカの言うとおり、ワイバーンは強い。 空を飛ぶ大型爬虫類という時点で強い。
 例えばワニ――――それもクロコダイルに羽が生えて、空中から獰猛に襲い掛かってくるとイメージしてもらえれば、その戦闘能力の高さがわかるだろう。
 本来なら初心者冒険者ルーキーの仕事ではない。
 しかし、依頼内容を正確に記載すれば――――

 『ワイバーンの幼体退治』

 村で異常発生しているワイバーンの幼体を退治してくれという依頼だ。
 その依頼書をギルドの窓口に持っていく。
 しかし、明の担当になっている受付嬢のオリオは依頼書を確認すると――――

 「この依頼はやめておいた方がいいですよ」

 そう言った。

 「何か、問題でも?」
 「はい、実はワイバーンの幼体退治だけなら、白ランクの冒険者でも可能な依頼ですが――――どうも、近くに親が潜んでいる可能性があるみたいでして」

 「そりゃ、幼体が大量発生しているなら親が近くにいるのでは?」と明は言った。
 しかし、それは間違いらしい。
 スイカは――――

 「アキラさま、ワイバーンは生まれた直後、空を飛べるようになるとすぐに巣立ちが始まるのです」
 「なるほど、本来なら親離れ、子離れが終わっている時期なのか……じゃ、なんで親が?」

 明の疑問に「わかりません」とオリオ嬢を答えた。

 「この依頼には不可解な事が多くて、ギルド内でも緑ランク……あるいは赤ランクに上げるべきだと言われている最中なのです」

 スイカは明の顔を窺った。
 明が言っていた超能力――――魔法とは違う超常的能力によって異常イレギュラーを読み取るという方法。
 疑っていたわけではないが……こんなにも簡単に……

 だが、驚くスイカの耳元で明は小声で言った。

 「いや、これではない。この依頼は――――背後に人の手が加えられている。人の悪意と殺意が――――」


 

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