破滅の華が散る日まで

澪佩

幸せという名の温もり

「独りぼっちじゃないから……。」

「……え?」
独りぼっちじゃない。そう言ってくれたのは、ユリュリアじゃなく、弟のリーリエ君。

「おにいちゃん、独りぼっちじゃないよ。姉さんの他にも俺達がいるから。そんな寂しそうな顔しないで。」
そっか……、僕はもうひとりじゃないんだ。

「ありがとう、リーリエ君。これから宜しくね。僕はルノワール。今日から、この家で暮らすんだ。君たちと一緒に。」
スレリオ君も、ミルリアちゃんも笑って応えてくれた。今までユリュリアに抱かれていたスレリオ君がおぼつかない足取りで僕の方へ来た。

「スレリオに好かれてるのね、ルノワール。」
驚いた顔で、ミルリアちゃんのお守りにつくユリュリア。

「故郷で小さい子達の面倒をよく見てたんだ。……まぁ、関係ないけどね。」

「そうだったの……。でもね、スレリオが自分から初めてあった人のところに行くことはとても珍しいのよ。いっつも泣いてばかりで……。」
ポスンと腕の中に収まったスレリオ君がすがるように手を伸ばしてくる。優しく抱き上げてあげると、スリスリと頬を擦り付けてきた。

「あはは、くすぐったいよ。」
スレリオ君の跳ねた髪が鼻をくすぐる。くしゃみを必死で耐えるけど、それを面白がるかのように、容赦なくスレリオ君はさらに激しく首を振った。

「スレリオがこんなに甘えているのは初めて……。」

「わっ、アッハハハハハ……!く、くすぐったいよ!!」
スレリオ君の髪の毛攻撃に必死で耐えつつ、みんなと一緒に笑っていると、従者の人がドアを開けた。

「皆様、ディナーの用意ができました。」

「ありがとう、すぐ行くわ。みんなも行きましょう。」
スレリオ君をそのまま抱き上げて、一緒に行く。ユリュリアのすぐ後ろを歩いていたので、あ、そうだ。と急停止されるとぶつかりそうになって焦った

「私のこと、リーアでいいから。ユリュリアって呼びづらいでしょ?」
リーア、ユリュリアの略称か……。厚かましいかもしれないけれど、僕も略称で呼んでもらおう。僕の名前もかなりめんどくさい……というか一々言わなくてもいいかなって思うんだ。

「ルーノ、ね。じゃあこれからそう呼ばせてもらうね。」

「うん。じゃ、行こう。」
食堂のドアが開かれて、中に入ると既に皆が集まっていた。豪華な装飾品に驚いていると、父君様が声をかけてくれた。

「ルノワールよ、ここが食堂だ。毎日ここで皆で食事をとる。覚えておきなさい。」

「はい。」

「……で、だ。何故、服が変わっているのだ?」
申し訳なさ過ぎて、言えない。ユリュリアに強制着せ替えさせられたなんて言えない

「え、えっと……。」

「お父様の服のセンスが無さすぎなのは私がよく存じ上げておりますが、ここまでとは思いませんでしたわ。」
り、リーア……!?仮にも自分のお父上に向かってなんて事を……。

「う……。お前に言われると何故こうも胸が痛くなるのか……。」

「私はお父様に一ヶ月一通りのことは教えたつもりでしたのに……。」
リーア!お、お父上がワナワナ震えてるけど、大丈夫!?

「す、すまぬ……。」
え?あれ?

「だから言ったでしょうあなた。意地を張らずにユリュリアの通りにしていればこのような事言われなくてもすみますのよ?」
母君様まで……!?あれ?服に関してはリーアに頭が上がらないみたい。なんだろう、一言で言うと……

「……シュールだな……クスッ」

「な、何を笑っておる!私は真剣だと言うのに……。」
わぁ、ごめんなさい!でも……

「皆、楽しそうで……。幸せだなぁ……って」

「ルーノ……。」
まるで、故郷のように。みんなが笑って過ごしてたあの日が、僕にとってはとっても幸せだったから。

「まぁまぁ、こんな話は後にして、食事にしましょう!」
全員が席に着いて食事を始める。のはいいけれど、こんな食事とったこと無いし、マナーとか分からない。わけも分からず勝手に食事を始めるのは、それこそマナー違反と言うかなんと言うか……。

「あら?食欲ないのかしら……」

「あ、いえ、そういう訳では……。」

「じゃあ、嫌いな物が入っていたとか?まさかアレルギー……!?」

「いえ!嫌いな物が入っていた訳でも、アレルギーがあるとかでもありません。」
母君様に心配をかけてしまった。

「ただ、その、食事のマナーとか、何も知らないので……、勝手に食べるのは良くないんじゃないかな……って……」

「心配せずともよい。これから慣れていけばよいだけの話だ。見ながら覚えた方が良いだろう。メイドも執事もこれくらいの事は気にせんよ。」
チラッと後ろで控えているメイドさん達を見ると、ニコッと笑顔を返してくれた。それでも僕の顔が緩む事がなかったのに気がついた執事さんが、一声かけてくれた。

「こんな家に突然来たのです。困惑もするでしょう。私達は全く気にしませんから、どうぞ召し上がってください。」
なんて優しい執事さんでしょうか。涙が出そう。せっかく作ってもらった料理が冷めないように。

「いただきます。」
新しい家族、温かい料理、温もりのある雰囲気、“幸せ”以外の言葉で表すなんて出来なかった。
・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚・*:..。o○☼*゚
食事が終わり、僕は先代様と屋敷の離れで過ごす事になった。明日の着替えと、そのほかに必要なものを抱えて、離れへと歩くつもりだったのに、アヴィール様が暴風で離れまで送ってくれた。食後すぐだったから、食べた物が出てきそうになるのを必死に堪えていた。

「うぅぅぅ……。」

「ははは、済まない。こうも弱いとは思わなんだ。」

「少しは手加減というものを覚えろ。可哀想に……。」
背中を優しくさすってくれるパーゴス様。初めて見た時は少し怖かったけれど、今はそんなことは無い。酔いが治まったので、少し聞いてみた。

「あの、パーゴス様は、何をされているんですか?」
少し考えたような顔をした後、笑顔で話してくれた。

「私は再生の神。壊れたものを直したり、作り直したりする仕事をしている。が、そんなのは昔の話で、息子が今はやっているよ。今は、この家でリーリエの教育係だ。」
あれ?パーゴス様はこの家の人じゃないのかな。

「先代様って、言われてましたけど……それは……?」
キョトンとした顔を一瞬だけしたと思ったら、笑われた。笑いが止まらなくなってしまったパーゴス様の代わりにハシュマダー様が説明してくれる。

「いや、この家は少し他の神と違って特殊でな、自然に関するもの全てを司る家なんだ。とてもじゃないが、子供に全てを詳しく教えてやる暇なんて、当主には無い。だから俺たちそれぞれ1つを極めている神を呼んで、教育係に付けているんだ。」

「私達から受け継ぐものが多い故に“先代”と呼ばれているのです。最も、この仕組みに変えてから、1万年も経ちますから、私達との縁は、かなり深いものですね。」
アヴィール様も懐かしむような感じに話してくれた。そんなに繋がりがあるなんて、凄いな……。


……僕には、僕らの種族には、他の種族とそんな深い繋がりが無い訳じゃない。ずっと昔に1つの種族から分裂した種族がいる。余り良い話ではなかったと、いつか長に聞いたことがあったかもしれない。

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