初恋はブドウのグミの味がする

ノベルバユーザー173744

美希side

 明日は遠足。

 今年最後の遠足には長距離を歩き、時々休憩をとりながらお弁当を食べたり、お菓子を同級生と分けっこをすることになっていた。
 そして班わけは女の子だけではなくて、片岡美希かたおかみきのクラスは男子と女子が3人ずつの6人のグループだった。

 美希の幼なじみの高橋千夜たかはしちやと、この学年で一緒になった柚須浦采明ゆすうらあやめである。
 そして男子は作楽章大さくらしょうた迫間翔はざまかける望月瑆もちづきひかる

 ちなみに翔は千夜が、千夜は章大、章大は采明が好きなのだが、采明は全く気づいていない。



 采明は小柄で、固く編んだ三つ編みと眼鏡をかけており、美希たちから見ても可愛いのだが、本人は同年代の男の子を弟のように思うらしく、彼氏の話もない。
 まぁ、10歳の女の子には早いというのは大人だけで、この年頃は背伸びしたい時期であるのだが、本人は歴史学者か発掘学者が夢だと言い切る。
 まだ小学生なのに歴史オタクで、発掘のボランティアに、自分でも図書館に通い様々なことを調べており、全く恋愛のレの字も出てこない。



 美希は帰る準備をして、瑆と何やら話をして、戻ってきた。
 そして声をかける。

「ねぇねぇ。お菓子、何持って行く?」
「あ、あの……」

 おっとりとした……普段は少々人見知りで、気になるものを発見すると大暴走する……采明は、

「あのね?昨日クッキーを作ったんだけど、明日持って行っていいかな?皆で食べよう?」
「えっ?クッキー作れるの?」

 千夜は驚いたように目を丸くする。

「うん、ケーキは潰れそうだし、マフィンは温めなおしたほうが美味しいから……チョコチップとチョコと普通のと作ったの。それだけじゃ足りないなら、今日帰ってからマドレーヌとかフィナンシェとか、シュークリームも作ろうか?」
「クッキーだけで十分だよ〜」
「そうそうあやちゃん。荷物になるよ」

 美希と千夜は笑う。

「じゃぁ、お菓子どうしよう?」

 300円までのお菓子代はとても安いと思っていたのだが、采明のクッキーで十分豪華になった。
 思いついたように、千夜は二人を見る。

「ねぇ?ミキッチ、あやちゃん。お菓子代300円って言われていたけど、あやちゃんにクッキーをもらうから、200円ずつにして買いに行かない?」
「そうしよっか」

 3人は笑う。
 幼なじみの美希と千夜はくされ縁だが、采明は性格に難は無く、母親が大きな会社を立ち上げた社長令嬢で、父親も世界的な考古学者だというのにそれも鼻にかけない。
 喋り方もおっとりしている上に、時々今回のようにお菓子を作ってくれる。
 その上、バレンタインのチョコレートを一緒に作ったり、本当に優しい子である。

 3人は並んで学校を出て、お菓子が売られている駄菓子屋に向かう。
 一回家に帰るのが普通だが、この駄菓子屋さんは校区内でも堂々と寄り道できる、昔ながらの駄菓子屋さんである。
 3人は200円と小銭を握りしめ入って行くと、明日の遠足のためか沢山の人だかりだった。

「……うーん、多いね。えっと、あっ、きなこ棒あったよ!」
「練り梅にヨーグルト!ミニ餅あるよね?何味がいいかなぁ」
「それに定番の美味しい棒!私はコーンスープ!」
「チーズ」

 美希と千夜は手を伸ばし、好きなお菓子を取っていくと、ひらひらと采明の手が揺れた。

「み、美希ちゃん……千夜ちゃん……私、明太子と納豆」

 采明の一言に二人は、

「えぇぇ、それ、うちのおじいちゃんがビール片手におつまみだよ?」
「あはは。最近ビールは高い!でも、美味しい棒は、わしらに良心的や!だって」

言いながらわたすと、入口で手にしたかごに入れる。

「ふふふっ。明太子は妹が大好きなの。あのね。妹の分も買って帰るから400円分買うね」
「お揃いなの?ほとんど」
「うん。私の方が昆布とかばかりで渋いって。噛んでると美味しいのにね」

 采明は笑うと、背の低い自分が取りやすいところにあった小さい袋を見せる。

「あ、二人とも、グミどうする?」
「え、あぁ、私も飴よりもグミ好きだなぁ。いる〜」
「私はいちごと、妹のがソーダ味」
「私はレモン。ミキッチは?」
「私はじゃぁ、ぶどうかな……」

 それぞれ手にし、200円消費税別に合うか計算し、レジで払った。

 そうしてお互い、200円にしては大きな収穫袋を握りしめて、明日のことを約束して帰って行ったのだった。

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