【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

正妻戦争(23)




「ベック! ここら近辺は避難が済んでいるとニードルス伯爵が言っていた。とりあえず、俺の魔法じゃなくて、何かしらの要因が原因でエルナのように倒れた人たちを一回救出に向かうぞ!」

 俺の言葉に、ベックが「マジっすか!」と、言う表情を見せてくるが、俺の意思が固いと見ると馬車を山猫族、狼族と戦った場所へと走らせる。
 現場に到着すると、穴から這い出てきた獣人たちが地面の上で失神していた。

「旦那……。本当のところ、どうなんですか?」
「何かを言いたいならはっきりを言ってくれないと困るな」
「……これって、どう見ても旦那が関与していますよね? 俺の鼻に詰めた物とかも含めて――」
「おいおい、何を言っているんだ? 憶測で他人を犯罪者のように言うのは間違っているだろう? それより……だ」

 俺は獣人をベックの幌馬車に乗せながら思考を目まぐるしく回転させる。
 正直、石鹸の件といい匂いの魔法といい俺にも落ち度があったことは間違いない。
 ただ問題は、エルナを相手にしていた以上、こちらにも切れる手札がそんなに多くなかったことだ。
 
 ――つまり、俺は悪くない。

 だが! 不可抗力の悲しい事故であったとしても、そこに他人が共感して無罪放免してくれるかと言うと難しいところだろう。
 それに広がり続けている気体――、異世界人には苦手な匂いをどうするかも問題だ。
 下手したらテロリスト扱いされかねない。
 そこまで考えると、俺が匂いを作ったとは言い出すのはリスクが高いだろう。

「ベック」
「なんすか?」
「お前は、以前に商人として大成したいようなことを言っていたよな?」
「まぁ……、そうですが――」
「俺は以前にベックに任せるのは塩の取引という話をしたが……」
「そうっすね……」
「香辛料とかも取り扱ってみたいと思わないか?」
「そ、それは――!?」

 さすが商人、
 俺が何を言いたいのか、その意味を察してくれたようだ。

「旦那、俺は奴隷を扱う商売をしてから塩を取り扱うようになりましたが……、犯罪の片棒を担ぐような――」
「売り上げの3割だ」
「……」
「売り上げの4割でどうだ?」
「俺っちは何も見ていませんでした!」
「だろう? 何かあっても何も見ていなかったと証言とかもしてくれると嬉しいんだがな……」
「もちろんですぜ! 俺は旦那についていきます!」

 ――ふう。
 これでベックへの根回しと俺のアリバイ確保は出来たな。
 あとは……。

「旦那、ついでですから今回の問題も何か脅威が現れたってことにすればいいのでは?」
「ふむ……」

 俺は、最後の獣人を幌馬車に乗せたあと、倒れている兵士の下へと近づく。
 兵士たちは鎧を着ていることもあり一人で持ちあげるのはきつい。
 ベックと二人掛かりで幌馬車に乗せていく。

「どんな脅威が現れたってことにするんだ? 俺は、その辺には詳しくないんだよな」
「旦那は、元々は冒険者ですよね?」
「ああ、そうだが……、覚えることがたくさんあってな――」

 この世界に転移してきてから覚えることが多すぎて、いちいち細かいことまで覚えていられないのだ。
 若ければ何とかなったのかも知れないが。

「――そうですか……」
「何かいい案があるのか?」
「……とりあえずドラゴンとか出て毒の霧を吐いたみたいなことにすればいいのでは?」
「そんなに上手くいくものなのか? そもそもドラゴンが姿を現さないのに、ドラゴンのせいもないと思うんだが……」

 俺は溜息をつく。
 どうも上手い言い訳というか工作が思いつかない。

「旦那、そっちの足を持ってくださいよ」
「分かっているって! 膝が痛いんだよ」

 ベックの問いかけに言葉を返したところで、北の方からドラゴンっぽい咆哮が聞こえたが――、きっと気のせいだろう。
 
 



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