【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

正妻戦争(19)エルナ VS 神田栄治



「……」

 エルナの言葉に無言になる。
 それよりも、どうしてリルカの父親がエルナの父親を殺したのか理解できない。
 それも獣人特有の物なのだろうか?
 俺が無言で居ると、それを無言の肯定として受け取ったのか知らないがエルナが口を開く。

「お前が! エルナを同情するたびに! エルナがどんな気持ちだったのか考えたことがあるでしゅか!」

 叫びながら掌底を俺に向けて放ってくる。
 それらを走りながら避けていると、膝に激痛が走った。

「――くっ!?」

 ――ずっと感じていなかった膝からの激痛に、顔を歪める。
 それと同時に、エルナの掌底が俺目掛けて放たれて、俺の頭上を掠めていく。

「――そ、それは!?」

 エルナの動揺を含んだ声色が聞こえてくる。
 本能が危険だと察し無意識の内に埋葬の生活魔法を発動してしまっていた。
 それにより体は地面の下に落ちてエルナの攻撃を避けることは出来た。

 ――だが……。

「さすがバレるよな――」
「ど、どうして……。どうしてカンダしゃんがリルカの姿をしているでしゅか?」

 地面から這い出ると、青くした表情でエルナが言葉を紡いでいた。
 それは、俺に語りかけるというよりも、どちらかと言えば自分自身に語りかけているようにも思える。

「エルナ!」

 俺が名前を呼ぶとエルナは、体を一瞬震わせたあと、焦点が定まらない瞳で俺を見てきた。

「もう……、全部終わりでしゅ――」

 エルナが体を翻すと俺から逃げるように走っていく。

「――くそっ!?」

 まだ何の話も出来ていないのに、こんなところで。
 それでも身体能力の差は歴然。
 あっと言う間に距離が開いていく。

「このままでは……」

 膝からの激痛に耐えながら走るが、横転してしまう。

「ここで見失ったら」

 二度と、エルナは帰ってこない気がする。
 それは誰も望んでいないことで。

「旦那! 何をしているんですか!?」
「ベック!? どうして、ここに!?」
「――旦那に伝えたいことがありまして姉さんに頼まれて――。それより一体、どうしてエルナさんを旦那が追っているんですか?」
「ああ、それだが……」

 俺は一瞬、言い淀む。
 この話はリルカとエルナの姉妹の問題だ。
 本人達の同意を得ていないのに第三者に漏らしてしまってもいいのか? と。

「すまない。事情は説明できないが」
「そうですか。それよりも――、姉さんが旦那の妻のリルカさんについて伝えて欲しいことがあると――」
「何かの病気だったのか?」
「いえ、それがですね――」

 ベックの言葉に俺は驚く。
 
「そうか……、それなら尚更、リルカとエルナの確執を解消しないといけないな」
「確執ですか? 何やら複雑な事情があるようで」

 俺はベックの言葉に頷き。

「馬車に乗せてくれ。今の俺だと走ることもきつい。それに最後の体力は残しておきたいからな」
「……わかりました」

 ベックの手を借りて馬車に乗ったところで。

「それよりも、もうエルナさんを見失ってしまったのでしょう? どうやって、追いかけるつもりで……」
「ああ、それならな……」
「――だ、旦那。それは一体……」

 俺が生活魔法で作りだした代物を見て興奮気味にベックが聞いてくる。
 
「赤外線カメラ搭載型のドローンだな」

 ベックの問いかけに答えながらも俺はコンソールを操作しながらドローンを空へ向けて飛ばす。
 今だけはニードルス伯爵が近隣住民を避難させておいてくれたことに感謝だな。
 おかげで――。

「ベック! 北へ向けて移動してくれ!」
「分かりましたぜ!」

 馬車が急加速してエルナのあとを追跡していく。
 離れている距離は300メートル前後。
 思ったよりも距離が離れていない。
 俺と戦っていたエルナなら、もっと早く走れていてもおかしくないはずなのに、上空から赤外線カメラで、エルナの姿を捉えてからと言うもの、彼女の移動速度が見る見る間に落ちていくのだ。
 
「旦那、エルナさんはどのへんに?」
「――いや、それが殆ど進んでいないんだ」

 ベックが一瞬無言になり何かを考えるそぶりを見せたあと「魔力切れかも知れませんね」と、答えてきた。
  


 



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