【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

女神ソルティの優雅な一日(1)

――ソドムの町から一週間の距離に存在する開拓村エル。

 神田栄治を筆頭に、多くの獣人が出稼ぎに出かけてしまった村は、閑散としていた。
 そんな閑散とした村にも、やはり毎日のように夜が来ては太陽が昇る。
 太陽が昇れば、職人が建てた訳でもない建築物の隙間からは日差しが入ってくるのだ。
 その光は、ログハウス内で寝ていた人物を覚醒させるには十分で――。

「――まぶしい……」

 私は、瞼を擦りながら丸太の上に敷かれた毛皮の上で体をゆっくりと伸ばす。
 外から見て人間と大差の無い作りをしている私の体は、実際のところ人とはまったく異なったプロセスから作られている。

 この世界アガルタ。

 その霊長類の万物的頂点として現在、位置づけられているのがメディデータと呼ばれる種族。
 彼らは、魔法の源とも言える精神物質の除去のために作られていて、いまもその仕事を無意識ながらもしている。
 ただ、世代が交代しすぎたせいで実際の目的は遥か昔に忘れ去られているのが現状で――。

「別にいいよね――」

 私は、頭を左右に振る。
 正直なところ、いまさら神代文明の記憶を思い出しても仕方ない。
 それよりも、今やらないといけないのは他にある。

 ログハウスの扉を開けて外へ出る。
 そのあと、もう一軒のログハウスの扉を開けて中を物色することにする。

「これは!?」

 私は、神田栄治とリルカという小娘が一緒に暮らしている家の中をチェックしながら、とんでもない物を見つけてしまう。
 それは――、なんと! まだ洗濯をしていない神田栄治の下着であった。


「くんくん。間違いないわ、これは間違いなく神田栄治の匂い……。まったく、あの小娘は、妻と名乗って起きながら炊事洗濯が不十分なんだからっ」

 私は、妻としての仕事をキチンとこなしていないリルカという小娘に少しだけ苛立ちながらも、あとで私が使う物として彼の下着をスカートのポケットの中へと仕舞う。

「本当に駄目な自称妻です。神田栄治が私を大事な人! とか大事な女神! とか言っていたから、将来は私が正妻になるのは決まっているから、今は、目を瞑っておいてあげましょう。そう、正妻の余裕という奴です」

 さらにログハウスの中を物色していくと、神田栄治が使っていたと思われる木で作られた歯ブラシや、毛布に小物がお宝のように輝いている。
 これは、正妻として将来取り仕切る必要が出てくる私にとって先行投資というか、そんなものでしょう。

 とりあえずアイテムボックスを開いて、中に全部入れていく。
 神田栄治が戻ってくるまで2週間もある。
 つまり、その間、私が色々なことに使っても問題ないということ。
 きちんと返すときには綺麗にして返しましょう。

 だいたい漁り終わってから、私は額に浮かび上がってきた汗をふき取る。
 そしてログハウスを出ると日は、頭上まで昇っていた。
 どうやら、かなり一生懸命、色々な物を選別していたこともあり時間を浪費してしまったみたい。
 私はスカートのポケットから、種と下着を間違えて取り出してしまう。

「おっと――」

 思わす今晩のおかずを土の上に落とすところでした。
 反対側のスカートから、小さな種がたくさん入った麻袋を取り出す。

「このへんでいいですか……」

 私は、自分自身に語りかけるように袋の中から種を掴んで周りへと均等に投げていく。
 
「こんなものですね」

 私は地面の上に落ちた無数の種を見ながら手を上げる。

「成長促進!」

 私は、回復魔法を発動させる。
 この世界――、昔の理を忘れたメディデータには使うことが出来ない魔法。
 それは魔法とも呼べない単純な細胞増殖を促す物。
 私が声をかけると同時に、無数の種は一気に発芽し地面に根を下ろし広げていく。
 そして、1分後には開拓村エル周辺には無数の豆やじゃがいもや小麦畑が広がっていた。

 私は、その様子を見ながら地面の上に膝をつく。
 これで彼が戻ってきたら「ソルティ、すばらしいよ! 愛している! 結婚してくれ! 正妻で!」とか言ってくれるはず。
 言ってくれなかったら、膝に抱えている呪いを交渉に持ち出すことにしましょう。

 男女の恋愛には、駆け引きが必要とか私を作ったマスターも言っていたし。
 それに、私のことを大事と言っていたんだもの。
 イエス以外の答えは考えられないし……。
 神田栄治が帰ってくるのが楽しみ!

 




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