【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

農耕を始めよう(9)




 現在、荷馬車2台に分かれて俺たちは乗車している。
 2台の内1台の荷馬車には俺とリルカ。
 そして、もう一台の荷馬車にはエルナと狼族と山猫族の獣人が乗っている。
 但し、俺達が乗っている馬車が空いているという事はない。
 売り物である塩を纏めて載せているため、後方の荷馬車よりも室内の空間は狭くなっているだろう。

「エイジさん」
「どうかしたのか?」

 リルカが荷物で狭くなっている荷台で近寄ってくる。
 すると、耳元で「こういう感じもいいですね」と、語りかけてきた。
 俺は思わず「どうかしたのか?」と問いかける。
 俺としては、荷物が詰まっていて窮屈この上ないのだが――。
 ただ、リルカの方を見ると、そうでも無いように見える。

 何せ、視線を向けると、リルカは頬を赤く染めている。
 彼女は俺を上目遣いで見てきていて、その瞳は潤んでいるようにすら見える。

 ――一言で言うのなら、扇情的に見えてしまう。

「――いえ。開拓村を出てから、ほかの子達の手前上、なかなか近づけなかったので……、それにコンコンも出来なかったので――」
「お、おう――」

 俺は、荷馬車の馬を操っている御者を見ながら、リルカの言葉に答える。
 ちなみに、狐族ではコンコンは夜の夫婦が行う営みを指す隠語らしく、俺も最初、リルカにコンコンしませんか? と言われたときには首を傾げたものだ。

 ちなみに山猫族の場合には、ニャンニャンと言うらしい。
 妙に地球っぽい気がするが、まぁ、異世界なのに日本語で意思疎通が出来る事や通貨基準が日本円に近い設定になっていることもあり気にしない事にした。
 どうやら、御者の人間はコンコンと言う意味を知らないらしく何のリアクションも起こさないまま、馬を操っている。

「すまないが、ニードルス伯爵の邸宅までは、どのくらいかかるのだろうか?」

 俺の言葉に御者をしていた兵士は、前を向いたまま指先を前方に見える丘上へと向けていた。
 丘の上には、明らかに規模の違う大きな洋館が建っている。
 建築様式は、ソドムの町で見られる古代アネナイに町並みとは異なっていた。

「あれだけは建築様式が違うな……」
「はい、話によると町には遺跡が多かった為、そのまま流用したそうですが、領主である伯爵様が、それだと格好がつかないとかで――」
「なるほど――」

 俺は兵士の答えに頷く。
 エルダ王国の貴族爵位は、国王がトップに君臨するというのは誰でも知っているが、その下には公爵、伯爵、男爵、騎士爵と爵位が続いている。
 
 その中で伯爵の位というのは上から数えて高い爵位であり、箔付けで建物をゼロから作るのはおかしな話でないだろう。

 ――赤い煉瓦で舗装された大通りを馬車は走り続けるが一つ気になった点がある。

 俺の勘違いかも知れないが町の規模からして大通りだと言うのに、思ったよりも人の行き来が少ないことだ。

「エイジさん、どうかしたのですか?」

 兵士と会話をしている途中で無言になった俺を心配してかリルカが話かけてきた。

「いや、なんでもない」

 以前に来たときよりも人通りが少ない気がしただけ。
 ずっと暮らしているわけではないのだ。
 そんなに深く気にする必要はないだろう。
 俺としては作物の苗と、冬を乗り切るだけの食料が確保出来ればいいのだからな。

 大通りを通りぬけたあと、丘の上へと続く道を荷馬車は走り続ける。
 斜面を登りきると、重厚な石が均一に並べられた壁が立っていた。

「門を開けてくれ。ニードルス伯爵様への客人だ!」
「「「スザンナ様に客人?」」」
 
 御者をしていた男の言葉を聞くと同時に、門の周辺を警護していた兵士達から一斉に戸惑いの色合いを含んだ目を向けられる。
 
「ああ――。スザンナ様への客人だ。早く門を!」

 馬を操ったまま、御者は周囲に響き渡るような声で開門を命じる。
 するとすぐに門が開いていく。
 完全に門が開いたところで、御者が俺達の方を見てくる。

「それでは神田栄治様、それと奥方様、お二人だけで来て頂けますか? さすがに奴隷をつれて入るのは――」
「なるほど……」

 俺は兵士の言葉に頷く。
 俺だけを連れてこいという話だったのに、余計な人間を連れていくのは不味いと言う意味なのだろう。
 俺は荷馬車から降りると、エルナや獣人たちが乗っている後方の荷馬車へと向かう。

「カンダしゃん?」

 俺が近づいてきたことに気がつくとエルナが話かけてきた。

「エルナ、ニードルス伯爵に会いに行ってくるから、ここで山猫族と狼族と待機しておいてくれ。何かあれば自衛の為の戦闘を認めるし、俺達が今日中に戻らなかった場合には分かるな?」

 リルカが俺の言葉に、両手でシャドーボクシングを行いながら「わかったでしゅ!」と答えてきた。
 まぁ、理解してくれたら何よりだ。

「それでは神田栄治様、宜しいでしょうか?」
 
 兵士の言葉に、俺はリルカを供だって伯爵の屋敷に繋がる城壁の門を潜り抜けた。




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