【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
農耕を始めよう(8)
――エルリダ大陸の南部一帯の統治している国がエルダ王国である。
エルダ王国は、立憲君主制を敷いておりローレンシア大陸発祥のリメイラール教会とは、反目し合ってはいないが、お互い牽制し合っているというのが国民から見た印象であった。
そのエルダ王国の中でも、リメイラール教会の支配力が強いソドムの町は、人口1万人に近い近隣では、かなり大きな都市になる。
古い遺跡群を利用して作られた町ということもあり、エルダ王国内でも開発が進んでいない東方地区では、高水準の建造物が多い。
ソドムの町は外から見ると、古代のギリシャ共和国の首都アテナイを彷彿とさせた石造りの建物が多く見受けられる。
「エイジさん――、ずいぶんと大きな建物があるのですね」
ソドムの町に入るため、手続きで城壁前の門で並んでいると壁向こうに見える建物を見ながらリルカが驚いた様子で俺に語りかけてきた。
「そうだな……」
俺も何度か、ギルドのクエストで、ソドムの町に来た事はあった。
そのときに感じた印象としては、古代の建造物を利用しているのがいいのだが――。
古い建築様式を、そのまま利用していることで内部の生活空間が圧迫されていて、宿に泊まっても、中々疲れが取れなかった。
ソフィアやリアなどは、「ベッドに寝られるだけで十分です」と、二人して俺が作った風呂に入ったあと早々と就寝してしまっていたが、俺は中々寝付けなかった。
なにせ天井が異様に高いのだ。
チグハグすぎる部屋の作りに、結局、一睡も出来なかったのも、いまではいい思い出だ。
「次の方どうぞ――」
「俺たちの番だな」
1時間近く待たされたこともあり溜息をつきながら兵士にエンパスの町で作った開拓村エルの村長である身分証明書である木の板を渡す。
俺の板を受け取った兵士は、次にリルカの身分証明である木の板を確認する。
すると何度も板とリルカを見たあとに「エイジ カンダ。この者は、貴方の妻と言うことになっているが?」と、語りかけてきた。
その表情からは、先ほどとは違っていい感情は見られない。
「――俺の妻が何か問題でもあるのか?」
自分でも驚く程、低い声が思わず出ていた。
俺の声に、城壁前に待機していた兵士達が集まってくる。
「――どうしたんだ?」
集まってきた兵士の中で髭を生やした40歳後半の男が俺の対応をしていた20歳にも満たない若者に何かあったのか? と確認していた。
「いえ、それが――、獣人を妻にしている人が……」
「なるほど――」
若い兵士に老兵士は説明を受けたあと、俺の木の板を見て突如、顔色を変えた。
「――ま、まさか……。神田栄治様ですか?」
「――ん? ああ、そうだが……」
俺は、老兵士とは初めて会ったばかりなのだが……。
どうして様付けされるのか意味が分からない。
「ハーグ隊長。お知り合いで?」
「馬鹿もん! ニードルス伯爵のスザンナ様からの命令を忘れたのか! 神田栄治様が来られたらすぐに屋敷の方へ案内するように前から言われているだろうが!」
「――へ? この冴えない中年が?」
「……お前は、物理的に首が飛んでもよいのか?」
若い兵士は「――い、いえ」と首を横にふっている。
「申し訳ありません。まさか神田栄治様が、また来られるとは思っていなかったもので……。それで石鹸の納品か何かでしょうか?」
「いや――、塩を売りにきただけだ」
「そうでしたが! 当主のスザンナ様が、神田栄治様が来られましたらぜひ屋敷に招待したいと2年前から仰っておりまして――」
2年前か……。
そういえば、最初に石鹸を作ったのは、この町だったな……。
あのときに作りすぎた事と練習でかなりの量を作ったこともあって処分するのも手間だったから無料同然で商業ギルドに卸していたな。
そのときに、この世界の人間には石鹸は有害でないデータが取れたから、商業ギルドには感謝感激だ。
「ふむ……」
俺は両腕を組んで考える。
たしか当主のスザンナはエルダ王国では珍しい女性当主だったはずだ。
年齢は、巷の話だと18歳前後。
あれから2年経過しているから20歳か?
まぁ一度も会ったことは無いが、容姿は醜いと聞いたことがあったな。
そんな彼女が俺に何の要か?
疑問は尽きないが――。
列に並んでいる人間や兵士達の目もあるからな。
ここで貴族に会わないとなると、俺が貴族を軽んじていると思われるかもしれない。
それは、今後の村開拓や商業取引でマイナスになる恐れがある。
「分かった。案内してもらえるか?」
「すぐに案内致します。奥方様達は?」
「一緒で大丈夫か?」
「分かりました」
老兵士は頭を下げると荷馬車を2台用意してきた。
恐らく、これで伯爵の下へ案内するということなのだろう。
何も問題が起きなければいいんだけどな。
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