【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

メリア王女


 情緒不安定な塩の女神――元・塩の女神ソルティを連れて俺と、リルカは村に戻った。
 現在、開拓村エルには、多くの住人の滞在している。

 その原因というのが「異世界から魔王を討伐するために降臨なされた神田栄治様! お待ちしておりました!」と、俺に語りかけてきたエルダ王国第三王位継承権を持つメリア・ド・エルダにあった。
 現在、彼女を警護するために多くの兵士が、開拓村エルに居る。

  どうして、メリア王女が、こんな辺境の村にいるかと言うと、俺が元の世界へ帰還してしまう可能性があるのかを確認したかったらしい。
 そんなに俺は珍しい人間でもないのにご苦労なことだ。
 ちなみに、リムルは先に王都へ護送されているし、彼女の悪事を証言する為に、リアやソフィアもエルダ王国の王都へ動向していた。

 俺は、メリア王女の言葉に、心の中で溜息をつく。
 
「あの、俺は勇者でも何でもないんですが?」

 勇者という事になったら色々と面倒事に巻き込まれる可能性があるのは、長年の社会人経験から分かる。
 そう言った物語の主人公ポジョンは、一介のサラリーマンに過ぎなかった俺には荷が重過ぎるからやめてほしいが、さすがにエルダ王国の第三王位継承権を持つ姫には強く言えないのがもどかしい。

 ――本当に、困ったものだ。

「勇者は、御自身で吹聴するから勇者ではありません。勇者と呼ばれるに相応しい行動と結果――そして、功績を残すことで勇者と呼ばれるのです」
「……」

 たしかに言っていることは間違ってはいない……、間違ってはいないが! 正直、そういう役どころは欲しくない。
 俺が欲しいポジションは、ゲームで言うところの町名を紹介するキャラくらいの役処がほしいのだ。
 その方が色々と面倒ごとに巻き込まれてなく済むから。

「ところで勇者様、その白い髪の少女はどなたですか?」

 彼女の言葉に何と言おうか迷ってしまう。
 正直に、さっきまで女神だったソルティですよ? と言うべきだろうか?
 いや、言って何か問題があると困るだろう。
 そうなると、ソルティの設定も考えないといけないな。

 俺は、小声で「ソルティ、お前は何か特殊能力とか無いのか?」と問い掛ける。するとすぐに、「私に特殊能力があるわけ……香辛料が作れるわね」と答えてきた。

 ただ、この世界の香辛料はアホほど高い。
 香辛料を作れると知られたらソルティの身に危険が及ぶかもしれない。
 俺はすかさず「香辛料以外に何かできないのか?」と問い掛ける。
 すると、ソルティは「回復魔法が使えるわね」と言ってきた。

 それを聞いた俺は思った。
 こいつは、俺の唯一の売りである回復魔法という専売特許を奪いにきていると。
 だが、下手に嘘をついても仕方ないからな。

「メリアさま、この者の名前はソルティと言います。回復魔法が得意な者です」
「そうなのですか!? 神田栄治のところには素晴らしい人材が集まるのですね! 勇者でありアイアンゴーレムを一人で倒せる前衛としての神田栄治。そして魔法師のリアに弓使いでありエルフのソフィア、最後に回復魔法師ですか。まさしく勇者パーティに相応しいです!」
「いえ、勇者パーティではないのですが……、そもそもリアとソフィアとはパーティを解散していますし」

 俺の言葉に、メリア王女は驚いた表情を浮かべると、「そうなのですか!? 二人ともそのようなことを言ってはおりませんでした……」と、落胆した様子を見せてくる。

「それに、今はリルカやエルナが俺の家族ですから」
「リルカにエルナ?」

 メリア王女は、青く澄んだ大きな瞳で周囲を見渡しながら「他に人族の姿は見られませんが?」と俺に問いかけてくる。
 どうやら、彼女は俺の家族が獣人だとは知らないようだ。

「メリア様、こちらが俺の妻であるリルカです」
「――え!?」

 俺の言葉に、後ろに立っていたリルカが一歩前に出ると、「エルダ王国のメリア王女様ですね。私は、エイジの妻のリルカです。今後とも、よろしくお願い致します」と頭を下げていた。
 するとメリア王女の目がスッと細くなると、リルカを一瞥したあとに横を通り過ぎるとメリア王女は俺の手を握ってきた。

「神田栄治様。今度、妹を紹介したいのですが宜しいでしょうか?」
「――え?」
「神田栄治様も、冗談がお好きですわね。でも、王族の前でついていい嘘といけない嘘はありますのよ? それと王家と致しましては、神田栄治様を貴族に取り立てることも視野に入れておりますの。後日、改めて使者を神田栄治様に使わせますので、また王宮で、お会い致しましょう」

 メリア王女は俺の両手を離すと、すぐに兵士達に王宮へ帰る指示を与えると、村から去っていった。
 


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