【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記
宿屋は野生の色
宿場町エンパスは、開拓村エルを除けば最も辺境にある町というか村だ。
いや、人口的には2000人近いから町というべきなのだろうか?
そんなエンパスの道は、数日前に来た時と同じように石が敷かれているわけでもなく、剥き出しの地面のままであった。
「カンダしゃん! あれは、何でしゅか!?」
エルナは、匂いの元凶である屋台に走って近づくと、噛り付かんばかりに屋台の商品を見ている。
「お、おう……。いらっしゃい……、獣人のお嬢ちゃんかな?」
何かの肉を焼いていた40歳くらいの中年のおっさんが、若干引きながらエルナに語りかけている。
するとエルナは屋台の中年に「エルナでしゅ!」と、元気よく自己紹介していた。
「それは、何でしゅか?」
「これはオーク肉の串焼きだよ!」
「オークってあのオークでしゅか?」
「そう、あのオークだよ?」
「へー……」
俺としてはオーク肉にというか、オークにはトラウマがあるから食べたくないんだが……。
エルナが、手を繋いでいる俺とリルカの方を輝く瞳で見てくる。
そんな眼で見られても、買い食いなんて……。
「おやっさん、オーク肉の串焼きを2本……」
「あいよ!」
調味料は、おそらく塩だけ。
それでもオーク肉の焼ける匂いは、食欲を誘うのだろう。
エルナとリルカは、歩きながらオーク肉の串焼きを食べていた。
ちなみにエルナに至っては、頬袋がリスのように丸くなっている。
この子は、ハムスターか何かなのだろうか?
そもそも狐って頬袋なんて存在したのだろうか?
謎は深まるばかりだが、今は宿を取ることが先決だろう。
「リルカ、今日は宿を取ろうと思うんだが……」
「そうですね。エイジさんの足のこともありますし――」
「そういえば、ここ数日――」
話の途中で口を閉じる。
ここ最近、忙しくてリルカに膝をペロペロしてもらってない。
そろそろ膝が痛くなりそうだから早めに宿を取った方がいいな。
そうすると……、町では一番高い宿がいいだろう。
高い料金の宿屋の方が部屋の壁も厚いだろうからな。
「ここ数日、どうかしたのですか?」
「いや、エルナはかわいいなと思ってな」
俺とリルカの間で歩いているエルナの頭を撫でる。
すると、金色の狐耳がピコピコと動く。
その反応が面白く、つい触っていると手の甲をリルカに抓られた。
「エイジさん! そういうのは宿についてからにしてください!」
人目を憚るようなことを俺はしていないんだが……。
「リルカ、頭を撫でるという行為は、人間世界では子供を可愛がることなんだ。つまり家族の愛情表現というやつだ。一応、俺たちは親子という設定なんだから、街中に居るときは、人間社会と同じように振舞わないとな」
「ううっ……、人間社会に従属するなんて……。――で、でもエイジさんが、そう言うなら、納得します……」
「そうか」
リルカが体を振るわせていたので彼女の頭を撫でる。
すると、俺の腕に彼女は自身の腕を絡めると歩き出してしまった。
ただ、怒っているようには見えないから問題ないはず。
通りを歩きながら通行人に一番高くて獣人に偏見がない宿屋を聞いていくと一軒の宿屋を紹介された。
町の中心部に位置する場所に建っていた宿屋「金色の花亭」は、町で唯一の煉瓦で造られた立派な建物であった。
外装は、茶色い煉瓦が使われており屋根には赤い煉瓦が使われている。
建物のコンストラストが、とても美しく花壇まで設けられており品格から言えば、カルーダの港に建っている銀色の花亭と肩を並べるというか……。
「まったく同じだよな……」
「どうかしたのですか?」
リルカの問いかけに「いいや、なんでもない」と答えると俺はリルカやエルナを伴って宿に足を踏み入れる。
カウンターにはメイド服を着た20歳前半の女性が立っていた。
「いらっしゃいませ! お泊りですか?」
「ああ、泊まりで頼む」
リルカとエルナは宿が珍しいのか周囲をキョロキョロと見渡している。
そんな彼女達に気がついたのか「えっと、獣人とのお泊りコースがありますが、どうしますか?」と、カウンターの女性は要らぬ気を使って語りかけてきた。
「いえ、いいです。普通の部屋でお願いします」
「…………そ、そうですか……」
どうやら、良かれと思って提案してくれてきたみたいだ。
少し罪悪感が……。
「そ、それじゃ……、獣人とのお泊りコースで――」
まぁ、獣人とのお泊りコースなら、普通の部屋よりもリルカにとって良いかもしれないからな。
俺は、リルカとエルを横目で見ながらカウンターを挟んで立っているメイドから鍵を預かった。
「それでは、ごゆっくりお楽しみください!」
「いくらになる?」
「獣人とのお泊りコースは、事が終わってから清算になりますので――」
「そうか……」
俺は少し疑問に思う。
ある程度、身分が高くないと普通の宿は前払いが基本だからだ。
もしかしたら獣人コースは、色々とオプションがついたコースなのかもしれない。
これは、気をつけないといけないな!
 
「ルームサービスは、一回につき金貨1枚ですので! それと食堂もありますが、食堂はお客様がいらっしゃる通路をまっすぐに進んだ突き当りを右に曲がった場所になります。お泊り頂いたお客様には一食銀貨1枚で提供しておりますので、ルームサービスではなく食堂で食事を取りたい場合は、ご利用ください」
「わかった。リルカ、エルナ、いくぞ!」
「はい!」
「はいでしゅ!」
俺は二人を連れて階段を上がっていく。
「えっと、鍵に書いてあるのは201か……」
「カンダしゃん! ここでしゅ!」
通路を先行していたエルナが、部屋を見つけたのか元気よく叫んできた。
俺はすぐに小走りで近づく。
「エルナ、同じ場所に宿泊している人もいるんだから、無闇に騒いだら駄目だぞ?」
「どうしてでしゅ?」
「寝ている人がいたら起こしてしまうからな。エルナだって寝ている最中に起こされたら嫌だろう?」
俺の説明に納得してくれたのかエルナが「うん……」と小さく頷いてきた。
素直な良い娘でホッとする。
きっとリルカの育て方というか教育の仕方がいいのだろう。
「さて、荷物を置いて食堂で食事にいくと……する……か!?」
部屋の扉を開けた瞬間に飛び込んできたのは、カーペットから壁から布団まで全てピンク色一式の部屋であった。
ベッドは部屋には一つしかないが、3人が川の字になって寝られるくらいには大きいが……。
これは、どうしたものか……。
「これは素晴らしいです! ね! エイジさん! ね! ね!」
「ね! ってそんなに連発しなくていいから……」
リルカが瞳を潤ませながら頬をかくして語りかけてくる。
俺はため息しかでなかった。
なるほど、つまりルームサービスや宿泊代の後での支払いと言ったのは、そういうことなのだろう。
そういうことなのだろう。大事なことだから2回、心の中で呟いた。
やれやれだぜ。
いや、人口的には2000人近いから町というべきなのだろうか?
そんなエンパスの道は、数日前に来た時と同じように石が敷かれているわけでもなく、剥き出しの地面のままであった。
「カンダしゃん! あれは、何でしゅか!?」
エルナは、匂いの元凶である屋台に走って近づくと、噛り付かんばかりに屋台の商品を見ている。
「お、おう……。いらっしゃい……、獣人のお嬢ちゃんかな?」
何かの肉を焼いていた40歳くらいの中年のおっさんが、若干引きながらエルナに語りかけている。
するとエルナは屋台の中年に「エルナでしゅ!」と、元気よく自己紹介していた。
「それは、何でしゅか?」
「これはオーク肉の串焼きだよ!」
「オークってあのオークでしゅか?」
「そう、あのオークだよ?」
「へー……」
俺としてはオーク肉にというか、オークにはトラウマがあるから食べたくないんだが……。
エルナが、手を繋いでいる俺とリルカの方を輝く瞳で見てくる。
そんな眼で見られても、買い食いなんて……。
「おやっさん、オーク肉の串焼きを2本……」
「あいよ!」
調味料は、おそらく塩だけ。
それでもオーク肉の焼ける匂いは、食欲を誘うのだろう。
エルナとリルカは、歩きながらオーク肉の串焼きを食べていた。
ちなみにエルナに至っては、頬袋がリスのように丸くなっている。
この子は、ハムスターか何かなのだろうか?
そもそも狐って頬袋なんて存在したのだろうか?
謎は深まるばかりだが、今は宿を取ることが先決だろう。
「リルカ、今日は宿を取ろうと思うんだが……」
「そうですね。エイジさんの足のこともありますし――」
「そういえば、ここ数日――」
話の途中で口を閉じる。
ここ最近、忙しくてリルカに膝をペロペロしてもらってない。
そろそろ膝が痛くなりそうだから早めに宿を取った方がいいな。
そうすると……、町では一番高い宿がいいだろう。
高い料金の宿屋の方が部屋の壁も厚いだろうからな。
「ここ数日、どうかしたのですか?」
「いや、エルナはかわいいなと思ってな」
俺とリルカの間で歩いているエルナの頭を撫でる。
すると、金色の狐耳がピコピコと動く。
その反応が面白く、つい触っていると手の甲をリルカに抓られた。
「エイジさん! そういうのは宿についてからにしてください!」
人目を憚るようなことを俺はしていないんだが……。
「リルカ、頭を撫でるという行為は、人間世界では子供を可愛がることなんだ。つまり家族の愛情表現というやつだ。一応、俺たちは親子という設定なんだから、街中に居るときは、人間社会と同じように振舞わないとな」
「ううっ……、人間社会に従属するなんて……。――で、でもエイジさんが、そう言うなら、納得します……」
「そうか」
リルカが体を振るわせていたので彼女の頭を撫でる。
すると、俺の腕に彼女は自身の腕を絡めると歩き出してしまった。
ただ、怒っているようには見えないから問題ないはず。
通りを歩きながら通行人に一番高くて獣人に偏見がない宿屋を聞いていくと一軒の宿屋を紹介された。
町の中心部に位置する場所に建っていた宿屋「金色の花亭」は、町で唯一の煉瓦で造られた立派な建物であった。
外装は、茶色い煉瓦が使われており屋根には赤い煉瓦が使われている。
建物のコンストラストが、とても美しく花壇まで設けられており品格から言えば、カルーダの港に建っている銀色の花亭と肩を並べるというか……。
「まったく同じだよな……」
「どうかしたのですか?」
リルカの問いかけに「いいや、なんでもない」と答えると俺はリルカやエルナを伴って宿に足を踏み入れる。
カウンターにはメイド服を着た20歳前半の女性が立っていた。
「いらっしゃいませ! お泊りですか?」
「ああ、泊まりで頼む」
リルカとエルナは宿が珍しいのか周囲をキョロキョロと見渡している。
そんな彼女達に気がついたのか「えっと、獣人とのお泊りコースがありますが、どうしますか?」と、カウンターの女性は要らぬ気を使って語りかけてきた。
「いえ、いいです。普通の部屋でお願いします」
「…………そ、そうですか……」
どうやら、良かれと思って提案してくれてきたみたいだ。
少し罪悪感が……。
「そ、それじゃ……、獣人とのお泊りコースで――」
まぁ、獣人とのお泊りコースなら、普通の部屋よりもリルカにとって良いかもしれないからな。
俺は、リルカとエルを横目で見ながらカウンターを挟んで立っているメイドから鍵を預かった。
「それでは、ごゆっくりお楽しみください!」
「いくらになる?」
「獣人とのお泊りコースは、事が終わってから清算になりますので――」
「そうか……」
俺は少し疑問に思う。
ある程度、身分が高くないと普通の宿は前払いが基本だからだ。
もしかしたら獣人コースは、色々とオプションがついたコースなのかもしれない。
これは、気をつけないといけないな!
 
「ルームサービスは、一回につき金貨1枚ですので! それと食堂もありますが、食堂はお客様がいらっしゃる通路をまっすぐに進んだ突き当りを右に曲がった場所になります。お泊り頂いたお客様には一食銀貨1枚で提供しておりますので、ルームサービスではなく食堂で食事を取りたい場合は、ご利用ください」
「わかった。リルカ、エルナ、いくぞ!」
「はい!」
「はいでしゅ!」
俺は二人を連れて階段を上がっていく。
「えっと、鍵に書いてあるのは201か……」
「カンダしゃん! ここでしゅ!」
通路を先行していたエルナが、部屋を見つけたのか元気よく叫んできた。
俺はすぐに小走りで近づく。
「エルナ、同じ場所に宿泊している人もいるんだから、無闇に騒いだら駄目だぞ?」
「どうしてでしゅ?」
「寝ている人がいたら起こしてしまうからな。エルナだって寝ている最中に起こされたら嫌だろう?」
俺の説明に納得してくれたのかエルナが「うん……」と小さく頷いてきた。
素直な良い娘でホッとする。
きっとリルカの育て方というか教育の仕方がいいのだろう。
「さて、荷物を置いて食堂で食事にいくと……する……か!?」
部屋の扉を開けた瞬間に飛び込んできたのは、カーペットから壁から布団まで全てピンク色一式の部屋であった。
ベッドは部屋には一つしかないが、3人が川の字になって寝られるくらいには大きいが……。
これは、どうしたものか……。
「これは素晴らしいです! ね! エイジさん! ね! ね!」
「ね! ってそんなに連発しなくていいから……」
リルカが瞳を潤ませながら頬をかくして語りかけてくる。
俺はため息しかでなかった。
なるほど、つまりルームサービスや宿泊代の後での支払いと言ったのは、そういうことなのだろう。
そういうことなのだろう。大事なことだから2回、心の中で呟いた。
やれやれだぜ。
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