【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

リアside (3)



 カタコトと、木の車輪が大地と接しながら走り、その振動はモロに私の不調な体を直撃した。

「ソフィア、気持ち悪いの」

 カルーダ港からリンゼントの町まで歩いていたから忘れていた。
 そう、私は馬車酔いをする体質だったということを……。
 現在、私は魔法師の命とも言える杖を枕にしたまま、横になっている。

「ほら、これを飲みなさい」

 ソフィアが、布に包んでいた白い塊のようなモノを指先で摘むと差し出してきた。
 
「それは……」
「カンダさんが作った酔い止めの薬だから」
「よかったの……」

 冒険者ギルドと提携を結んでいる薬師ギルドや錬金術師ギルドが作った乗り物酔いの薬は、基本的に匂いが強く私には合わない。
 飲んだら、余計に気持ち悪くなって馬車の中がひどいことになってしまう。
 でも、カンダさんが作った薬は無味無臭で、とても飲みやすい。
 私は、横になったまま口を開ける。

「もう! 飲むときくらいは座って飲みなさいよね」
「動きたくないの! 動いたら負けだと思っているの!」
「カンダさんみたいな事を言わないの! あの人も時たま、働いたら負けだと思っている! とか言っているから」

 文句を言いながらもソフィアは、「まったく雛鳥みたいよね」と小さく笑いながら白い薬を私の口に放り込んできた。
 私は体を横にして鉄製のカンダさんが作った魔法瓶という水筒に口をつけて水を口に含んでから薬ごと流し込む。
 そんな私を見ながらソフィアは、小さくため息をついていたけど乗り物に強い人には私の気持ちは分からないのだ。
 
「目的地についたら教えて」

 私は、ソフィアに一言呟くと目を閉じた。



 どのくらい寝たのか分からない。
 でも、馬車に乗っていたときに感じていた不快な感じはもうなかった。

「ふぁああああ」

 片目を開けながら背伸びをすると、両手足に違和感を覚えた。
 なんだか手を上げたときにジャラという音が聞こえたような……。

「えええー……、こ、これって、どういうことなの?」
「んーっ! んーっ!」

 声がした方へと視線を向ける。
 すると視線の先には、両手を縄で縛られて石の床に転がされているソフィアの姿があった。
 口には猿轡まで噛まされていて話せないみたいで――。
 どうみても真っ当な状況ではないことは分かる。
 問題は、私たちがどういう状況に置かれているかだけど、私の場合は両手両足に金属製の枷が嵌められているし首には、奴隷の証である首輪がついていた。
 
「ま、まさか……」

 頭から血の毛がサッと下がっていく。
 これは、まさか相当ヤバイ状況なのではないだろうか? と……。
 ソフィアに近づきたいけど、石壁に手と足から伸びている鎖がつながっていて多少の自由はあるけど、ソフィアの近くまで移動することが出来ない。 
 私は自由に話すことは出来る。
 だけど、魔法石が嵌っている魔法の杖が無いから魔法が使えない。
 
 そして、ソフィアはハーフエルフだから精霊を少しは見ることができる。
 うまくすれば、精霊にお願いをすれば……エルフが居れば助けを期待できた。
 でも、いまはそれができない。
 まるで私達のことを知っているかのように適切に対処している。
 相手は、私達を奴隷にして、どこかに売り飛ばすつもりなのかもしれない。
 それにしても……信じられない。
 いくら寝ていたとしても気がつかなかったなんて……。
 ソフィアだって居たのに、彼女が簡単に捕まるということも信じられない。



「本当にいいので?」
「ええ――、彼女達は邪魔者の何者でもありませんから……」

 声が聞こえてくる。
 そして重厚な音を立てて鉄製の扉が開いていくと、一人の女性と3人の男が姿をあらわした。
 そこに居たのは、冒険者ギルドマスターの孫リムルとグローブ。
 そして神官だと言っていた男に行商人と思われる男だった。

「リムル! どういうつもりよ!」
「どういうつもり? それは私のセリフよ? 彼方達は、カンダ エイジの元に向かうつもりなのでしょう?」
「それで、どうして……」

 私の言葉にリムルは笑う。

「貴方は馬鹿なの? 私が手配した辺境の地――その開拓クエストが、本来ならEランク以下の冒険者にのみに適用される雑務だと彼が知ったら、私が困るからよ! それに……ギルドマスターである叔父様から聞いたのよ? 石鹸を冒険者ギルドに卸していたのは彼だとね! 王宮御用達になるかも知れない石鹸よ? カンダ エイジには利用価値があるの。私が自分のことしか考えない冒険者を一掃するだけの権力を手に入れるためのね!」
「それで、私達が邪魔だと?」
「そうよ? だから、貴方たちには奴隷として他国に売りに出してもらうように偶然出会った彼にお願いしたの。よかったわね? 彼は、まだまだ駆け出しの奴隷商人だから、足もつかないから! 他国でせいぜい元気に過ごすといいわ! 最後に教えておいてあげる! 彼方達が乗った馬車だけど、あれは私が手配したのよ? そこの商人ベックにね! アハハハハハ」

 リムルが高笑いしながらベックという奴隷商人を置いて部屋から出ていく。
 どうしよう……。
 奴隷の首輪は、隷属の首輪で命令されたら、どんな命令も聞かないといけない。
 それに他国に連れて行かれたら私もソフィアも、もう生きている間はカンダさんに絶対に会えない。

「ううっ……、カンダさん……」

 私は、その場に座り込む。
 まさか、冒険者ギルドがここまでするなんて思わなかった。
 そういえば、冒険者ギルドに登録している冒険者が失踪している事件が続いていた。
 もしかすると……。
 でも、私達も性奴隷として売られてしまうことを考えると、絶望しかない。

「――ちょっといいですか?」

 ベックという男が私に話かけてきた。
 一体、私に何を聞きたいのだろう?
 もしかしたら、男性経験の有無を聞く気なのだろうか?

「何ですか?」
「先ほど話していたカンダ エイジって開拓村エルのカンダの旦那のことですか?」
「――えっ!?」
「なるほど……どうもきな臭いと思っていましたが……、これは旦那に恩を売れるチャンス――」

 どうやら、ベックという男はカンダさんと繫がりがあるみたい。
 でも、それ以上にどうして奴隷商人とか関わりがあるのか……。
 詳しく聞く必要があるのかもしれない。




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