【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

尻尾ルール




 リルカを共だって開拓村とは名ばかりの場所へと戻ると、俺とリルカの姿を見た獣人達が複雑そうな表情をむけてきた。

「何かあったのか?」

 俺はリルカに語りかける。
 直接、獣人に話しをするよりも、リルカを伴侶とした以上、リルカは獣人の扱いに長けているのだからリルカに任せた方がいいと言う判断だ。

「彼女達には一応、カンダさんの一番の番は私だと説明してあります。もし、私が居なくなれば――」
「なるほど、自分が一番目の伴侶になれるかもしれないと……って!? ちょっとまって! 俺は、そんな節操なしの男じゃないぞ? 伴侶にするなら女性は一人と決めているからな!」
「たぶん、それは難しいと思います」
「むずかしい?」
「はい――、だってカンダさんは群れのリーダーですから……」
「群れのリーダーだと関係あるのか?」
「あります。群れに一匹しか雄がいない場合、全ての雌を相手にするのは雄のお仕事ですから」
「……なん……だと!? それって……」
「はい、第一婦人が私で第二婦人がエルナで――」
「エルナはアウトだからな。10歳以下の幼女が第二婦人とかダメだからな」
「……でも、それが獣人の群れとしてはあるべき姿なのです」
「ここは人間の村だから! それに、獣人だから必ずしもリーダーとそういう仲にならないといけないということもないだろう?」
「……いいえ、そういう仲になるのが獣です」
「……そのへんは、おいおい話をするとしよう」
「……はい……」

 リルカは俺の言葉にしぶしぶと言った表情で引き下がってくれた。
 そして、リルカを見ていた獣人達は、全員が一斉に「ええー……」という声を上げていたが、俺は男女関係の深い中など人生40年の間に一度経験したことがない。
 そんな状態で、ハーレムなんて作りたくない。
 それに日本人的、道徳観点から何人も妻を持つなんて良くないと思っている。

「……それにしても――」
「カンダさん、どうかしましたか?」
「いや、風呂に入るとずいぶんと感じが違うんだなと……」
「そうですか?」

 俺はリルカの言葉に頷きながら「ほら、毛並というか尻尾がふわふわしてきて触りたくなるというか……原始的に触りたくなるような欲求が……襲ってくるだろう?」と答える。

 風呂に入る前は、薄汚れていて気がつかなかった。
 お風呂後の獣人は、なんというか尻尾が、もふもふしていて触りたくなる衝動に駆られてくる。
 それは、生物の根源に訴えかけてくるものだ。

「カンダさん?」
「――ん? どうした?」

 リルカの方へ視線を向けると彼女は、少し怒っているように見える。
 何か、おかしなことを言ったか?
 いや、獣人だと人間の常識が通じない可能性がある。
 ここは、男らしく紳士的に対応するべきだろう。

「まだ、第一婦人が子を産んでいないのに、別の雌の尻尾を褒めるのは良くないんですよ?」
「そうなのか?」

 いや、さっき俺はリルカ以外はいらないと宣言したはずなのだが……。
 それを込みでも他の女性獣人の尻尾の毛並を褒めるのは良くないらしい。

「ほら! 私の尻尾でしたらいくらでも触っていいですから!」

 何故か知らないがリルカが銀色のふさふさな狐の尻尾を器用に俺の手のひらの上に載せてきた。
 周囲の獣人女性からは「キャー」という黄色い声が聞こえてくる。
 そしてリルカと言えば頬だけではなく顔全体を真っ赤にして潤んだ瞳で俺を見上げてきている。

「リルカ、尻尾には何か意味があるのか?」
「はい。雄に尻尾を握らせるという行為は繁殖行為をしましょうという意味なのです」

 リルカの説明に俺は、「……あ、――う、うん……」としか返すことができない。 
 それにしても獣人というのは色々と問題を抱えているというか人間とは、かなり仕来りが違って判断がつかないな。
 ここは、エルナに干し肉を与えて獣人にたいするブレーンになってもらうのが先決かもしれない。

「それで寝床についてはどうする?」
「今日は、壊れ掛けた家を使ってもらいましょう。明日には同じ家を建てればいいわけですし……」

 なるほど……。
 本当はログハウスに10人くらいなら泊めるくらい問題なかったのだが、獣人には獣人の掟やルールがあるだろう。
 ここはリルカに任せるほうがいい。

「わかった。獣人達の扱いについてはリルカに一任するから任せてもいいか?」
「はい! 私がカンダさんの一番目の番としてしっかりと教えます!」

 リルカは、俺の瞳を見ながら答えてきた。





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