【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

責任(後編)




「そんな不測な事態が起きるかも知れないのに俺が離れていても大丈夫なのか? 俺も一応、戦うことが出来るし、一緒に居たほうがいいんじゃないのか?」
「――いえ、どちらかと言えばカンダさんはいらっしゃらないほうがいいかと……」
「そうなのか?」

 俺の問いかけにリルカは頷きながら「はい。彼女達は意識を奪われていますから――」と、答えてきた。
 
「意識を奪われている……か――」

 異世界転移してきてから、この世界の奴隷の扱いについて深くは考えていなかった。
 意識が奪われるということは記憶や自我が封印されているかも知れないということだ。
 つまり、それは人権を無視したことであり最も忌避すること。

 そんなことを人間にされれば、人間全てを恨むのは当然のことだ。

「カンダさん?」
「俺は、少し奴隷について軽く考えすぎていたのかもしれないな」

 彼女らの扱いについて、思うところがあったから購入して連れてきた。
 ただ、それが本当にいいのかどうかと言われれば――。

「大丈夫です! 私が説明しますから!」
「いや、ここは彼女らに奴隷を無理強いした可能性もある人間として俺が――」
「ダメです!」
「――ッ!?」
「カンダさんが、誠実に物事を考えていらっしゃるのはわかります。ですけど、私にとっては! カンダさんが大事なのです! それは確定です! ですから、ですから……」

 リルカが、瞳に涙を溜めて俺に語りかけてくる。
 その様子は、とても必死で俺の身を案じてくれているのが、痛いほど伝わってきて――。

「分かった。迷惑をかけるな……」
「いえ、これは私が行わないといけないことですから……」
「それじゃログハウスの中に入っていればいいのか?」
「はい。それでは、私が手を振りましたら【奴隷開放】と言っていただけますか?」
「わかった。聞こえるくらいの大声で叫んだほうがいいか?」
「はい」
 
 リルカの言葉に俺は頷く。
 そして、少しでも早く奴隷の彼女らが解放されるようにと小走りでログハウスに向かい扉を開けると建物の中に入った。

「これって……」

 周りを見渡す余裕が出来たのか俺は、いままで壁だと思っていたところから光が差し込んでいることに気がつく。
 そこには両開きの小さな扉が設置されていた。
 所謂、小窓という感じになっている。

 俺は、ログハウスの小窓としての役割を担うと思われる両開きの木の扉を開ける。
 すると、リルカの背中が丁度見えた。
 しばらく、彼女の後姿を見ていると俺に向けて手を振ってきた。

「準備が出来たってことか」

 俺は、すぐに【奴隷解放】を大声で叫ぶ。
 すると、直立不動していた奴隷たちが、一斉に地面の上に座り込んでしまった。

「なるほど……、奴隷を解放すると与えていた命令も解除されるのか……。まぁ、当然と言えば当然だな――」

 奴隷でもないのに、いつまでも命令を聞いている方が問題だからな。
 リルカが奴隷に襲われたら、すぐ助けられるように見ていると、何やらリルカが熱心に獣人に語りかけている。
 もしかしたら、暴れないようにと説明をしているのかも知れない。
 それか、現状を説明しているのかもな。

「おねえちゃん、抜け目がないのでしゅ」
「――うぉ!? え、エルナ!? 一体、いつから……そこに――」
「これって……って辺りからでしゅ」
「最初からいたのか……」
「うん! 私がいると色々と面倒なことになるからでしゅ」
「面倒なことか――」
「でしゅ!」
「やっぱり、どうして奴隷になるかの過程を詳しく調べる必要があるのかもしれないな」





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