【佳作受賞作品】おっさんの異世界建国記

なつめ猫

商談。




「――それで、奴隷とかどうだ?」
「そうだな、俺が購入しない場合はどうなる?」

 俺の言葉に、奴隷商人は肩を竦める。

「じつは女の奴隷ばかりなんだよ」
「ふむ……商館にでも売ろうと考えていたのか?」
「いいや、貴族に売ろうと思って、はるばる隣国のテラン王国から仕入れてきたんだよ」
「なるほど……」

 俺が、奴隷商人の話に耳を傾けると、男は満面な笑みを浮かべてきた。
 どうやら、苦労話があるらしい。

「俺の名前はカンダと言うんだが……そこの飯屋でどうだ?」

 奴隷商人を飯に誘うことにする。
 直接的に言えば、話でもどうだ? という意味だ。

 相手も言いたいことがある。
 そして俺も奴隷商人の会話から何かしらの情報が聞き出せる。

 それに、食事と言っても、所詮は庶民が食べるような田舎の飯屋だ。
 そんなにお金はかからない。
 銀貨数枚で、俺の知らない隣国や貴族の情報が聞けるなら安いものだろう。

「いいぜ? カンダさんとやら、俺の名はベックっていう」
「そうか、それじゃベック。俺は飯屋で席を取っておく」

 俺は近くの木材だけで作られた飯屋の中に入る。
 建築方式としては、西部劇に出てくるような作りをしており、周りの建物から少し浮いているような感じがするが気にしないことにする。
 よく知らないが日本の文化や世界の文化が垣間見えるときがあるのだ。
 板を張り合わせただけの床の上を歩く。
 そのたびに木音が、飯屋の中に響き渡る。
 丁度良く客の姿は見当たらない。

 一番奥まったテーブル席に腰を下ろしたところで30歳くらいの女性が近づいてくる。

「見ない顔だね? 酒かい? 食事かい?」
「食事と酒両方で――、ここの店のお勧めを2人分と酒をもってきてくれ」
「あいよ!」

 ぽっちゃり系のお姉さん? が、注文をとるとカウンターの方へと歩いていく。
 
「ふむ……やっぱり女性は30歳くらいがいいな……」

 自分の年齢が上がっていくにつれ女性の年齢も18歳から30歳近くへと好みがシフトしてきた。
 おそらく、自分の年齢にあった女性に興味を持つのだろう。
 人間とは不思議なものだ。

「ああ、ベック! こっちだ、こっち!」

 俺は飯屋に入ってきたベックに向けて声を掛ける。
 男は俺が奥まった場所に席を取っているのを確認すると、近づいてくる。
 その後ろからは、12歳くらいの犬耳の女の子と猫耳の女の子が着いてきた。

「お前たちは、そこに立っていろ」
「「はい」」

 ベックの命令に素直に聞いた二人の少女は、ベックの真後ろに立つと俺を見てきた。
 ただ、二人ともどこか感情が抜け落ちた瞳をしているような――。

「ベック、二人とも大丈夫なのか? 瞳にハイライトさんが無いような……じゃなくて瞳がどこか空ろな気がするんだが……」
「ああ、それですか? 二人とも奴隷ですからね……。狼族と山猫族は、言うことを聞かないんですよ!」
「そうなのか?」
「はい……おかげで貴族の方には感情がないとつまらないと言われて、感情があると反発しすぎるからと言われまして……狐族なら従順で大人しいんですが、中々、見つかりませんからね――」
「そうか……」

 こいつ、俺に不良品を売りつけようとしていたんじゃないのか?
 まったく油断ならない奴だな……。

「ただ、繁殖には問題ないですし、それに――これから熟れ時ですからね……カンダの旦那も、どうですか? 一匹いれば色々と便利ですよ?」
「…………」

 奴隷は何度か見たことがあったが、奴隷商人と話をしたことは、今までなかった。 
 彼らが、奴隷をどのように見ているのかを知らなかったが……。
 感情を制御して商品のように扱うのは、正直――。

 いや、俺が何か言っても何かが変わる訳がないからな……。

「たとえば、鉱山だと幾らで買い取ってくれるんだ?」
「そうですなー……」

 ベックは、俺が本気で購入するとは思っていないようだ。
 29歳まで日本で営業もこなしていた俺にとって、異世界の擦れていない営業対応などイージーモードだ。

「一人、金貨30枚と言ったところでしょうか?」
「結構安いんだな」
「はい――。仕入れ値ぎりぎりですよ」

 ベックは、肩を落とす。

「お待たせ!」

 話をしている途中で、注文していた料理が届く。

「まぁ、あれだ! 今日は、俺のおごりだ! 食べて飲んでくれ!」
「本当にいいのか?」
「ああ! 男に二言はない!」

 俺の言葉にベックは貪るように食事を始めた。

「あまり食事を摂っていなかったのか?」
「ああ、奴隷を仕入れるのに殆ど金を使ってしまって――」
「ふむ……」

 それにしても、奴隷2人で金貨60枚として、その仕入れ値だけで予算ギリギリだとすると目の前の男は、そんなにお金を持っていない奴隷商人なのか?
 
「ベック、何人くらい奴隷を購入したんだ?」
「――ん? ああ、10人だ」
「10人? いまは2人しかいないようだが……」
「今日中に鉱山に売りにいく予定だからな。身を守るための奴隷以外は幌馬車に積んでいるんだよ」
「なるほど……」

 俺は懐から金貨500枚が入った袋を取り出しテーブルの上に置く。
 
「ベック、奴隷を10人とも購入したい」
「――へっ?」
「いや、だからお前、奴隷を鉱山に売りにいくんだろ? だったら、俺が、ここで購入してもいいだろ?」
「相場だと、一人あたり金貨100――」
「おいおい、お前は鉱山に金貨30枚で売るって言っていただろ? ここに金貨500枚ある、一人金貨50枚で俺が購入しようと言っているんだぞ? 金貨200枚の黒字だ。悪い話ではないと思うが?」
「だ――だが……」
「俺は別に無理にとは言わない。お前が、お金が無いと鉱山に売りにいかないといけないと言っていたことばに同情して、一緒に飯を食っている仲だから多少上乗せして購入するが、どうだ? と聞いただけだが?」
「それは……」
「まぁ、俺は別に奴隷が居なくてもいいんだけどな……」

 俺は金貨の入った袋を懐に仕舞おうとすると、俺の腕をベックが掴んできた。

「わ、わかりました。売りましょう」
「売りましょう?」
「売らせてください」
「おーけー。商談成立だな」

 食事を摂り俺持ちで清算したあと、建物から出たあとはベックの後についていく。
 
「こんなところがあったのか……」
「ここが馬車を止めるところですよ、カンダの旦那」

 何時の間にかベックの俺を呼ぶ名前がカンダの旦那になっていた。
 よく冒険者で旅やクエストをしていると、しばらくした後、町の住人からカンダの旦那と呼ばれていた。
 理由は不明だが深くは気にしないことにする。

「ふむ――」

 ベックが幌馬車の出入り場所である布を開けると異臭が鼻を刺激してきた。

「おい、きちんと風呂に入れているのか?」
「――え? 奴隷にですか?」
「いや、なんでもない……」

 どうも、この世界の奴隷制度には色々と問題があるな。


 

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