花贈りのコウノトリ
10
「航が元気に学校行ってバイトして毎日楽しく過ごしてたら、それでもう親御さんにとっては親孝行なんだよ。病気してぶっ倒れたり、くっだらねーことして警察の世話になったりして親御さんにひでぇ迷惑かけるなんてことすりゃ…そこで初めて親不孝したって思えばいいんだ。勿論、多少の迷惑や心配ぐれぇ掛けたっていいんだからな。子供のケツ拭きなんざ、お安い御用ってこった」
と、俺は思うんだがな。
からからと笑いながらケンさんは言った。
みるみるうちに心のしこりが取れていくのがわかった。うん、そうだねとすぐに納得出来るわけでは無かったけれど…もし本当にそうなら、辛うじて僕に出来ることがひとつだけ見つかった。
「ケンさん、ありがとうございます」
「気にすんなよ…俺だってクソガキの頃はそうやって悩んでて、この言葉に救われたクソッタレだ」
もう一本火をつけた煙草を咥えたケンさんは手を組んでぐっと背伸びをすると、椅子に凭れ脚を組んだ。
ケンさんも、悩んでたのか…
意外、というのはもうやめよう。こういう人程親思いなのはもう今日一日で学んだから。
「今はこうして花をあげる時代になったから良いものの、昔はそうでも無かったからな。頭わりー俺はなーんにも思い付かねーで、いっつも考えてたわ」
今は良い時代だよなぁ。
咥え煙草で煙を吐きながら天井を仰いだケンさんの頬には少しばかり笑みが浮かんでいた。
当然、ケンさんが言いたいのは適当に花でも贈っていればいいんだ、ということでは無い。それはわかってる。
呪縛から解放された気持ちになって、不思議と身体が軽くなった。肩を回して、僕もそっと椅子に身を預けた。
「とはいえなぁ」
しかし後に続いたケンさんの言葉に、何か説教をされるのではないかと思って僕は身構えた。ケンさんは、ふん、と鼻で笑っていつものような悪そうなニヤケ顔を此方に見せる。
「お前…怒ると怖ぇなぁ。みんな言ってたぞ、航だけはキレさせんな、って」
意外な続きに安堵はしたが、改めて思うと確かに自分はあんな怒り方をするなんて自分でも知らなかった。普段から怒るのが面倒だからこういった感情を見せないだけあって他の人は勿論、僕までもが驚いた。
ケンさんは僕の珍しい一面を面白がっているけど、残念ながら僕が今後怒ることは多分無いと思う。
2年前の冬、母は病気で倒れた。
命に別状は無かったものの通院と薬を服用し続けることを余儀無くされ、以前より弱々しくなってしまった母を見て僕は責任を感じてしまった。
今と同じでろくに帰らないだけでなく、当時はまだこのバイトを始めていなかったから毎月毎月お金の全てを任せきりで、母が倒れたのは親の脛を齧っていた自分のせいだと病院のベッドで沢山の管に繋がれて寝る母に言ったことがあった。
その時の母の言葉が、今ケンさんが言ったことと全く同じだった。
気にしないで、航のせいやないのよ…
あのねぇ、お母さんは航が元気でいてくれるだけで充分なんよ…
毎日学校行って楽しく過ごしてくれるだけでお母さんは幸せ。
だからそんなに自分を責めたらいかんのよ…それこそ、お母さんは悲しい。
迷惑も心配もかけなさい…
子供の為に苦労が出来るなんて…お母さんは何て幸せなんやろうね…
遠慮せんでええんよ…親子なんやから…
 
忘れかけていた母の言葉を思い出しながら、僕は一口カフェオレを口にした。
心が晴れた後のカフェオレはまた一段と甘くて、でもやっぱりほろ苦いような気がした。
と、俺は思うんだがな。
からからと笑いながらケンさんは言った。
みるみるうちに心のしこりが取れていくのがわかった。うん、そうだねとすぐに納得出来るわけでは無かったけれど…もし本当にそうなら、辛うじて僕に出来ることがひとつだけ見つかった。
「ケンさん、ありがとうございます」
「気にすんなよ…俺だってクソガキの頃はそうやって悩んでて、この言葉に救われたクソッタレだ」
もう一本火をつけた煙草を咥えたケンさんは手を組んでぐっと背伸びをすると、椅子に凭れ脚を組んだ。
ケンさんも、悩んでたのか…
意外、というのはもうやめよう。こういう人程親思いなのはもう今日一日で学んだから。
「今はこうして花をあげる時代になったから良いものの、昔はそうでも無かったからな。頭わりー俺はなーんにも思い付かねーで、いっつも考えてたわ」
今は良い時代だよなぁ。
咥え煙草で煙を吐きながら天井を仰いだケンさんの頬には少しばかり笑みが浮かんでいた。
当然、ケンさんが言いたいのは適当に花でも贈っていればいいんだ、ということでは無い。それはわかってる。
呪縛から解放された気持ちになって、不思議と身体が軽くなった。肩を回して、僕もそっと椅子に身を預けた。
「とはいえなぁ」
しかし後に続いたケンさんの言葉に、何か説教をされるのではないかと思って僕は身構えた。ケンさんは、ふん、と鼻で笑っていつものような悪そうなニヤケ顔を此方に見せる。
「お前…怒ると怖ぇなぁ。みんな言ってたぞ、航だけはキレさせんな、って」
意外な続きに安堵はしたが、改めて思うと確かに自分はあんな怒り方をするなんて自分でも知らなかった。普段から怒るのが面倒だからこういった感情を見せないだけあって他の人は勿論、僕までもが驚いた。
ケンさんは僕の珍しい一面を面白がっているけど、残念ながら僕が今後怒ることは多分無いと思う。
2年前の冬、母は病気で倒れた。
命に別状は無かったものの通院と薬を服用し続けることを余儀無くされ、以前より弱々しくなってしまった母を見て僕は責任を感じてしまった。
今と同じでろくに帰らないだけでなく、当時はまだこのバイトを始めていなかったから毎月毎月お金の全てを任せきりで、母が倒れたのは親の脛を齧っていた自分のせいだと病院のベッドで沢山の管に繋がれて寝る母に言ったことがあった。
その時の母の言葉が、今ケンさんが言ったことと全く同じだった。
気にしないで、航のせいやないのよ…
あのねぇ、お母さんは航が元気でいてくれるだけで充分なんよ…
毎日学校行って楽しく過ごしてくれるだけでお母さんは幸せ。
だからそんなに自分を責めたらいかんのよ…それこそ、お母さんは悲しい。
迷惑も心配もかけなさい…
子供の為に苦労が出来るなんて…お母さんは何て幸せなんやろうね…
遠慮せんでええんよ…親子なんやから…
 
忘れかけていた母の言葉を思い出しながら、僕は一口カフェオレを口にした。
心が晴れた後のカフェオレはまた一段と甘くて、でもやっぱりほろ苦いような気がした。
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