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花贈りのコウノトリ

しのはら捺樹

12

 母の日に花屋で働くと、いろんな親子のやり取りを目の当たりにすることができる。

 娘と母親、息子と母親。

 中には母親は内緒で父親と来る子供もいた。

 何歳であろうと離れて暮らしていようと血が繋がってなかろうと、母親にとって子供はいつまでも子供…息子、娘である。

 それは、どちらかが亡くなっても…永遠に。





 店までの道を歩きながら、僕はおもむろにケータイを取り出した。

 そして迷わず、その番号を選ぶ。

 数秒の通信音の後…

  「…もしもし?」
 
 久々に聞く、母の声。昔程元気は無いものの、優しく柔らかく…安心する声。

 「あ…もしもし…僕やけど」

 「久しぶりやね、今日は忙しかったんやないの?」

 「うん、めっちゃ忙しかった」

 母は何処か嬉しそうに思えた。僕も嬉しい半分、きっと僕から何も無いのだろうと落ち込んでいたかも知れないと思うと申し訳無い気持ちになった。

 なかなか本題に繋げなくて、母が一方的に喋るのをずっと聞いていた。積もる話が相当あったんだろう。店に着いても母の話が止むことはない。

 裏口の階段に座って、僕はただうんうんと聞いた。話を聞きながら、何を伝えようか考える。

 やがて母の話が止むと、そのタイミングで切り出した。

 「あのさ、母さん」

 「何?」

 「ごめんな、その…なかなか帰れやんで」

 さっきまであれ程喋っていた母が黙った。すかさず僕は続ける。

 「母の日やのにこうして顔も見せられやんし、何もプレゼントなんて用意出来やんで…」

 「…アホやなぁ」

 僕のセリフを遮って、含み笑いをしながら母が言う。

 「そんなんは、もっと大人になってからでええんやに。今は学業に励んで、バイトして、健康に暮らしてくれてたら…お母さんにとっては充分親孝行や」

 あぁ…と僕は空を仰いだ。

 すごい。母親は偉大だ。

 言ってることはケンさんと全く同じなのに、心を強く打って揺さぶる。

 きっとこの言葉を母親から聞いた人はたくさんいると思う。ケンさんもそう、今日出会ってきた子どもたちも、多分店長も…あの男性もきっと…彼らにとっての母親はどれも皆全くの別人で他人なのに、母親たちはそうして口を揃えて言う。そしてそれを聞いた彼らは皆同じ温かさを受け取るのだ。

 「いつもありがとう。身体には気を付けて、父さんと仲良くやってや」

 「なんや、偉そうに…此方こそ、ありがとう」

 あの不良少女やナナミちゃんのように、感謝の気持ちを伝えるのはめちゃくちゃ恥ずかしかった。だけどやっぱり母はとても嬉しそうにそう返事した。

 そして電話が切れた後の電子音もなんとなく寂しげながらも、とても温かく感じた。




 近いうちに帰ろう。自分で作った花束を持っていって、プレゼントしよう。

 それが今の僕にできる、「僕なりの」親孝行なのかも知れない。




第二章 Mother's Day   完

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