ギャング★スター

髭紳士

テレパスβベータ

夜の街、路地裏でギャング・スターは傷の痛みに耐えていた。一晩すれば折れた腕は治るだろう。しかしアルファの言葉がスターを混乱させていた。
『実はな。皆、生きてるんだぜ』
その言葉が反駁する。奴が街を襲ったように、他の兄弟も攻撃を仕掛けてくるのだろうか。そんな思いがスターの中にあった。

街で最も高い電波塔。その鉄骨に腰掛ける短髪の女がいた。女は手に持った拡声器を口に当てると歌い出した。歌声は風に乗り、周囲数キロメートルに伝播する。
少しずつ紫色の光に染まっていく街を見て女は微笑んだ。
その目は深紫に輝いている…
「へエ。男前になったわね。ゼータ」
女が呟くと地上の紫の光が一斉にに同じ方向に移動を始めた。

地響きが起こる。街の中心部にははおよそ20万人の人間が暮らしている。そのほとんどが今、スター目掛けて走っているのだ。そしてスターはこんなことが出来る女を知っていた。
「ベータか…」
スターは深紅に輝く瞳で電波塔を見上げ、走りだした。

電波塔までの距離は2キロメートル。その間を阻むようにゆらりと紫に光る目をした人の波が現れ、後ろからは紫の津波が迫る。スターは壁を蹴りビルの屋上まで上がると建築物の屋根伝いに疾走した。途中、操られた人々が襲い掛かってくるがひたすらに避ける事に専念する。そして電波塔の入り口に辿り着いた時、暗闇から何かが降ってきてスターのすぐ横に落ちた。肉と骨の砕ける音が響き渡る。『人間』が降ってきているのだ。人の雨に飲み込まれ窒息しかけたスターは手を上へと伸ばす。一つの影がその手を掴んだ。
血に塗れながら二人は電波塔へ走る。スターの隣を走るのはサムライ、サイトーだった。
「サムライ。お前、平気なのか」
サイトーの瞳は紫に染まりつつあった。
「平気な訳があるか、今にも紫に飲まれそうだ。だが…」
サイトーは後ろに迫った人を切りつける。
「俺にはなんとしてでも守り抜かねばならぬ人がいる」
頂上に向かうエレベーターは停止している。階段の手前でサイトーは向き直り刀を構えた。
「長くは持たん。早く決着をつけろ」
そして、と言葉を続ける。
「後でお前と奴らの関係も聞かせてもらうからな」
スターは階段を駆け登る。途中で転がり落ちながらスターを道連れにしようとする人間を避け、遂に頂上に辿り着いた。
うずくまっていたベータはスターを見た途端に絶叫した。
「はやク。こロしてエ!!!」
スターは迷いなく銃を抜き弾丸を放つ、弾丸はベータの胸を貫いた。瞳から深紫の光が消え倒れる。それをスターは抱き止めた。
「私は殺した。殺した」
ベータは震える声で言う。
「他の皆には、こんな思いさせないで」
ベータはスターを見つめた。
「私のお願い、聞いてくれる?」
スターが頷くとベータは最後の力で自ら塔から飛び降りた。闇に吸い込まれていくベータを見てスターはその場にへたりこむ。
昇ってきた朝日が死体の山を照らしだした。

コメント

  • 蜉蝣

    謎が謎を呼ぶ展開…いいですねぇ
    続きが気になるなぁ

    0
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