One’s day off-Sakura-

嘉禄(かろく)

俺と君の夏の終わり

そろそろ夏も終わるというのに暑いある日のこと。

今日は待ちに待った夏祭りの日。
俺は随分前から一緒に行こうと約束していた人がいる。
俺たちは職業が特殊なので、こういう機会がないと滅多に他の人と同じような空気を味わう事ができない。
だから、お互いにこの日を楽しみにしていた。
父さん母さんも尋を連れて一緒に行くって言っていたけど、俺はあの人と2人きりで楽しむ。
夕方になって母さんに浴衣を着せてもらってリビングに出るとその人は私服で待っていた。


「お待たせ長谷部!」
「いや、待ってない…浴衣、着せてもらったんだな。」
「うん、どう?似合ってる?」
「ああ、よく似合ってる。じゃあ行くか。」
「うん!」


外に出ると俺たちは自然に手を繋いで歩き出した。
少し歩いて川沿いに着くと屋台が並んでいた。


「屋台巡りのためにお昼抜いたからお腹すいたー…よし、食べるぞー!」
「わざわざ抜いたのかよ…一気に食べると腹壊すぞ。」
「大丈夫だよ、俺の胃は強い!
さて、何から食べようかなー…あ、たこ焼き!」


俺が目を輝かせて駆け出すと、長谷部は溜息をついて後を追ってきた。
速攻買って、近くのベンチに座った。
作りたてだってお店のおじさんが言ってたから、かなり熱々で湯気が出てる。
一つ箸で取って食べたら予想通りめっちゃ熱かった。
俺猫舌だから、一口目で既に火傷をした。
美味しいけど、熱くて自然に涙目になる。


「あっつ…!火傷したー…」
「冷まさないで慌てて食べるからだろ…たこ焼きは逃げないんだから落ち着いてゆっくり食え。
ったく、仕方ないな…ほら、齧れ。」


おじさんがもう一つ付けてくれた箸を取って冷まし、俺の口元に差し出す。
おずおずと食べると、いい感じの温度になってて食べやすかった。


「うん、美味しい!じゃあ俺もお返しー。」
「…は?いや、俺は…」
「いいから、されっぱなしなんて俺の性に合わないこと分かってるでしょ?」
「…それはそうだけど…分かったよ。」


最初は戸惑ってたみたいだけど、最終的にはまんざらでもないという表情で俺が差し出したたこ焼きを頬張った。


「どう、美味しい?」
「…うん、美味い。」


その後は定番のかき氷や綿飴、じゃがバターなど食べて俺たちのお腹はいっぱいになった。
腹ごなしに歩いていると、途中でお面のお店を見つけた俺は駆け寄った。


「長谷部、なんかお面付けようよ一緒に!」
「お前はともかく、俺もか?いいけどさ…。
で、何つけるんだ?おかめ?天狗?ひょっとこ?」
「なんでそんなのばっかピックアップすんの?
狐面に決まってるじゃん!俺は白、長谷部は黒ね!」
「黒い狐面なんてあるのか…。」


俺と長谷部はお互いの狐面を手に入れて頭に斜めにかけた。それで一緒に写真撮ったので、家族に送っておいた。

また少し歩くと、射的の屋台があった。
その棚に景品として並んでいたものに、俺が欲しかったものがあった。


「長谷部、あそこに俺がずっと欲しかったものがある!やっていい?」
「やりたいならやればいいんじゃないか?」


と言われたので、俺は挑戦してみた…のだが、一向に取れない。
おかしいな、任務なら上手くいくのに…この銃扱いづらい…それともこの間合いがいけないのかな…。
そのまま最後まで取れず、落ち込みながら俺は諦めた。


「…長谷部、取れなかった…。」
「…しょうがないな、そんな顔するな。
俺が取ってやるから、あれだろ?」
「うん…。」


すっかり気落ちした俺の頭を撫でると長谷部はお金を払って銃を構えた。
俺が見守ってると、長谷部は一発で景品を撃ち落とした。


「…よし、ざっとこんなもんだ。」
「…すごい、ありがとう長谷部!」


俺が嬉しさのあまり抱きつくと、長谷部は苦笑しながら受け止めてくれた。
手に入れた景品を持って歩いていると、突然大きな音が聞こえてその方向を向いたら花火が打ち上がっていた。


「そっか、もうそんな時間かぁ。」
「ここに来てだいぶ時間経ってるもんな。」


その場に立ち止まって見上げた俺たちの前でどんどん色とりどりの花火が打ち上がる。
…実は、俺は花火どころか夏祭りに来るのが始めてだ。今まで過ごして来た経歴を鑑みると、もちろん夏祭りなんてものに来れるはずもなくて…だから、初めて来る夏祭りが君と一緒で良かったと心底思った。


「…ねぇ、長谷部。来年も一緒に夏祭り来てくれる?」
「当たり前だろ、お前とならどこだって行くよ。」
「ありがとう、大好き!」
「…ああ、俺も大好きだ。」


俺が明るく笑ってそう言うと、長谷部も微笑んで同じ言葉を返してくれた。
こうして夏の一夜は更けていき、俺たちの夏も終わった。



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