Each other's backs

有賀尋

One-split drinking party

「長谷部、飲みに行かないか」

こうして有賀さんに誘われて有賀さんの行きつけに連れていってもらった。
有賀さんについて行った行きつけは有賀さんらしくない賑やかなバルだった。

「1人で来る時あるんですか?」
「たまにな。任務行って家に戻る前にちょっと寄ったりとか」
「へぇ…」
「お前何飲む?」

あまり開拓していない俺はとりあえずビールを頼む。有賀さんはハイボール。有賀さんらしい。
しばらく2人で飲んでいると、後から有賀さんに声をかける人がいた。

「…涼しい風が吹きますか」

有賀さんの合言葉。この声ってまさか…

「貴方の心は瑠璃のように美しい」

振り返るとそこには…

「よっ、有賀さんに長谷部!」
「遅いぞ、戦闘狂」
「瑠衣さん!」

双子の片割れの瑠衣さんが立っていた。

「有賀さん、その渾名はここでは禁句だってばー」
「全く、俺はお前の行きつけは苦手だって言ったろ。なんでお前の行きつけに長谷部を呼び出さなきゃならないんだ」
「いーじゃんかー!俺だって本当は璃斗と行きたかったのー!」
「…えっと…話が全く読めないんですが…?」

話を聞くと、どうやら俺は嵌められたらしかった。
本当は有賀さんとサシ飲みで有賀さんの行きつけの静かなバーに連れていってくれるはずだったのが、瑠衣さんがどうやら誘ったらしく、俺には一切知らせられなかった。

要するに、してやられた。

「というわけでー!今日は俺の奢りだから!飲んでいいからね!」
「よし、言ったな。俺ハイボール大ジョッキで」
「俺ビールで…」
「俺テキーラ!ショット!」

それぞれが注文して乾杯すると、瑠衣さんがテキーラを飲む。テキーラはそれなりに度数あるししかもショットとなると…。
数分もしないうちに出来上がってしまった瑠衣さんは見ず知らずの人にも話しかけたり連れてきたりで大変なことになってしまった。
俺は飲めない訳では無いが、開拓が少なかったせいもあってコーラを頼んだ。

「…出来上がってますよね、瑠衣さん…」
「気をつけろよ、長谷部。ああなったらもううるさいだけだ。あと、ウザ絡みが激しい」
「あれー!長谷部飲んでないじゃーん!」

言われてすぐに肩を組まれる。手にはハイボール。

「いや、俺は…」
「自分のペースがあるんだからお前の限度の知らない飲み方に長谷部を付き合わせるな」
「えー!じゃあ有賀さん、飲み比べ付き合ってよー!」
「わかったわかった。付き合ってやるから」

2人が飲み比べを始めて、俺はコーラを…ってこれコーラじゃない…。これなんだろう…?
飲み慣れない感じがしたが残すのはなんだか嫌で飲み切る。

「あれ、コークハイ飲みきったのー?」
「…こ、コークハイ…?」

どうりで味が少し違うわけだ。

「俺コーラだったはずなんですけど…」
「俺がコークハイにすり替えた」
「あ、有賀さん!」
「でもさー、新規開拓もいいでしょー?長谷部いっつもビールだしぃ?」

確かに新規開拓もいいかなと思った。思ったより飲みやすくて、個人的には結構好きな感じ。
その後は瑠衣さんの璃斗さん自慢を聞いたり、有賀さんのいつきさん自慢だったり、俺が鯰尾の自慢をしたりと賑やかに過ぎていった。
結局飲み比べは有賀さんが完全勝利で幕を閉じた。瑠衣さんをチャーチに送ってから酔い覚ましのために家まで歩く途中で、ふと気になって有賀さんに問いかけた。

「有賀さん、どうして今日飲みなんかに…?」
「ん?お前も色々溜め込んでたからな。その発散に。悪かったな、瑠衣が来ることを黙ってて」
「発散できたのはよかったんですけど…しばらくトラウマになりそうです…」

小さく弱音を吐いて隣を歩く。

「…俺、有賀さんみたいになりたいです」
「俺か?やめとけ、こんなのになってもいいことないぞ」
「…そうじゃなくて…。鯰尾をちゃんと守りたいんです…有賀さんがいつきさんを守ってるみたいに…」
「…俺はお前達が羨ましいよ」
「…え?」

滅多に見せない有賀さんを見た俺はあまり詮索しないでおいた。

月明かりに照らされて伸びる影は、帰りを待つ愛しい人の元へと向かった。

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