Each other's backs

有賀尋

Trick or Treat!

そろそろ冬も近づき、風が冷たくなってくる季節だ。
そして、今日はハロウィン。

堅物3人衆は買い物に行ってきてという名目で家を追い出された。「メールするまで帰ってこないでね!」という忠告つきで。

「お菓子買って来いってことですよね、今日ハロウィンだし…」
「そうだな。ったく、百瀬は何を考えているんだか…」

何やら企んでいるのは知っていたから何も言わなかった。何気に衣装を楽しみにしてる節があるのかもしれない。
チョコレート、飴、クッキー、マシュマロ…定番のお菓子を買い込む。かなりの量を買ったから、しばらく尋のおやつに困ることはないだろう。
お菓子を小分けにするラッピング資材も買い終えて、3人で休憩がてらカフェに入る。揃って頼むのはコーヒーだ。

「結構買いましたね、お菓子」
「レジに持って行った時の店員の顔すごかったよな」
「拍子抜けしてたな」

足元に置いた袋の山を見る。
大きな袋がそれぞれの足元に1つずつ。長谷部の足元にはラッピング資材も置いてある。

「百瀬さん達、仮装するんですか?」
「まぁそうだろうな。何するんだか…」
「メールくるまで帰れないんですよね?これからどうします?」

メールが来る気配は一向にない。かと言って、ずっとここで喋っているのも…。

「…お菓子、俺達どこで包みます?場所ないですよね…」
「こういう時こそチャーチだよな。小分け作業しましょう、雛森さん」
「ついでに、ちょっと配りませんか、流石に多いし…」
「そうだな、そうするか」

意見が一致したところでコーヒーを飲み干して車に乗り込む。チャーチにはまだ部屋が残っていて、俺が使っていた部屋を使わせてもらう。今はもうほとんどの荷物をあの家に置いているからものはほとんどない。
部屋でしばらくお菓子を小分けにする。中身がそれぞれ異なるように作ると、何を聞きつけたのか、周瑠衣が部屋にやってきた。

「あ、いるってほんとだったんだ!有賀さん、Trick or Treat!」
「はいはい、ほら」

有賀がお菓子の包みを渡すと、瑠衣は目を輝かせた。

「やった、ありがと!」
「用がないならさっさと戻れ」
「えー、ひどいなー。手伝おうと思ったのにー」
「手伝いしなくていい。あ、じゃあこれ璃斗に渡してくれ」

有賀がもうひとつ瑠衣に渡した。満足したのか、瑠衣は「ありがとう!」と言って部屋を出ていった。

「優しいですよね、有賀さん」
「そんな事ない。あいつらにやらないと俺がいつきに怒られる」
「なるほどな」

そんなこんなで包み終えて関係部署に少し配り終えた頃、百瀬から「戻ってきていいわよー」とメールが入る。

「有賀、長谷部、戻ってこいとのお達しだ」
「じゃあ戻りますか」
「そうですね」

車に乗り、家に着いて玄関の扉を開ける。

「ただいま」
「ただいま戻りました」
「お邪魔します」

いつもなら玄関に走ってくる尋がいない。俺達は顔を見合わせつつもリビングへと向かう。リビングの扉を開けるとハロウィンにちなんだ料理がズラっと並んでいた。

「うわー…」
「すごい…ですね…」
「ハロウィンってこんなイベントだったっけ…?」

驚いていると、俺がいつも座る場所で何かが動いた。
よく見ると、あれは…猫耳?
有賀達に袋を預けて、そっと近寄る。そこには小さく丸くなって寝ている尋がいた。紫とピンクの縞模様の猫耳のついたパーカーを着て、両手は猫の手、顔には百瀬が書いたであろう猫ヒゲまでついている。
なるほど、今年はアリスか。
帰りを待っている間に寝てしまったんだろう。俺は2人を手招きした。そっと近寄ってくる2人に尋の姿を見せる。

「チェシャ猫になってる」
「百瀬さん流石ですね、可愛い」

思わず顔が綻ぶ。すると、尋が目を覚ました。

「おはよう尋」
「おとーさん…?兄ちゃん…?僕は尋じゃないもん!」
「尋じゃないのか?」
「僕はチェチャ猫!えーっと…とりっくおあとりーと!」

チェシャ猫と言いたいんだろうが、肝心のシャが言えていない。ただ、そんな所も可愛かった。
用意していたお菓子の包みを尋、いやチェシャ猫の目の前に差し出した。

「はい、そんな猫さんにどうぞ」
「わぁ…!ありがと!お菓子にゃー!」

思った以上の喜びように見ているこっちも楽しくなる。

「だから何で…!やだよ!これ来て涼の前に出たくない!」
「いいから早く行きなさい!」
「いつにい似合ってるから大丈夫だって」
「そういう問題じゃないよ!」

百瀬達のやりとりが聞こえてきた。俺は尋と遊びながら抱いて見守る事にした。
俺は恥ずかしがって出てきたいつきを見て思わず噴き出した。いつきが着ていたのは、いつだったか百瀬が任務で着ていたあのドレス。メイクもウィッグも偽装胸も全て百瀬の自前なはずだ。しかも遠目で見ると女にしか見えないと来たもんだ。有賀はその場で固まっていた。

「父さん笑わないでよ!涼助けて…!」
「いつきさん、似合ってますよ」
「そんなフォローいらないよ…!」

いつきは有賀の後ろに隠れた。

「似合ってる、隠れなくてもいいだろ」
「やだよ!恥ずかしいし…!何で俺がこんなの…!」

有賀の背中にピッタリくっついて離れなくなってしまったいつきを、有賀は優しく宥めていた。

「長谷部ー!」

鯰尾が長谷部の背中に飛びついた。つんのめりそうになりながらも長谷部は鯰尾を支えた。

「な、鯰尾!?」
「見て!似合う?」

鯰尾は黄色のトレーナーにジーンズのサロペット、紺色のニット帽にメガネ。
某外国アニメ映画に出てくるあれか。

「うん、似合ってる」
「ほんと!?やったね!…父さん、覚悟しといた方いいよ?」
「俺?」
「母さんめっちゃ気合入ってるから。尋、呼びに行こう」
「うん!」

俺は尋を降ろした。鯰尾と尋は百瀬を呼びに行ったらしいが…覚悟とは何ぞや。
しばらくして、俺は右肩を叩かれて振り向く。
そこには、所謂魔法使いが被る黒い帽子と黒いマント、黒のフリルのついたミニスカートワンピースを着た百瀬がいた。百瀬が顔を上げると、本当に美少女という言葉がぴったりなくらいだった。

「………百瀬?」
「魔法かけちゃうわよ?」
「………は?」

あまりの出来の良さに反応が薄くなると、百瀬はふくれっ面になった。

「雛森反応薄いー!」
「いや…可愛いし似合ってるし美少女なんだけど…クオリティ高すぎない?」
「いいじゃないの!こういう時しかできないんだもの!」
「もはやこれじゃハロウィンどころかコスプレ大会じゃ…」
「いいのよ!細かいことは気にしない!」

いつの間にか尋と鯰尾も戻ってきていた。尋を抱き上げた。

「おとーさん!」
「雛森」
「涼」
「長谷部!」

『Trick or Treat!』

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