Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜

ニムル

《幕間》彼女の物語 2

 じゃり、と何かが動く音がして振り向く。そこには無数の大きな目があり、縦に伸びた黒目が、奴らの避難所への来訪を知らせる。

「つ、ついにこの場所にも来た!?」

「まさかこいつら、初めから俺たちを1箇所に集めて!!」

「に、逃げろォォ!」

「この際けが人なんか気にしちゃいられねぇよ、自分の命最優先だ!」

「ああああ、まって、まってよお父さん!」

「やめて、なんで、なんで僕を……ぐあっ!?」

 人が人を蹴落とし合い、自分が餌にならないために家族や知り合い、身寄りのない他人を蛇に捧げては走り去り、追いつかれては食べられる。

 動くものを標的にしているように見える蛇達の行動は、恐ろしく理性的で、高度な知能を持って動いているように見えた。

 阿鼻叫喚に包まれる避難所の中心で、周囲を見回すことしか出来ないクルーたちに、ディレクターが「生きていたければギリギリまで動くな!」と制止を命令し、ひと塊になって息を潜めた。

 そこから先は、何も無い、ただ長い時間が続いた。

 周囲の逃げ惑う人達が次々と食べられ、蛇達はゆっくりと中央への向かってくる。

 ただその場をぽかんと見ていることしか出来ず、あまりの恐ろしさにサラはその場で気絶した。

「おい、こんなところで寝るなよ!」

 何度も彼女にみんながそう声をかけたが、その声が彼女に届くことは無かった。




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 崩壊から時間がたち、サラは目を覚ました。何かが焼けたような匂いと、それに混ざる血の匂いが鼻腔を刺すように充満する。

「なによ、これ……」

 周りには一人の人間もおらず、自分のすぐ近くにいたはずのクルーたちは、その場に赤黒いシミを残して消えていた。

「なんで、私だけ?」

 その理由はおおよそ把握出来た。

 寝ていたからだ。

 倒れていたからだ。

 恐らく奴らは、食べた人間の死の直前の反応を見て楽しんでいるんだ。あの蛇が知性があるのなら、それくらい出来るだろう。

 彼女は瞬時にそう判断した。

 最後の置き土産と言いたげに放置されていたビデオカメラを手に取り覗くと、中に見覚えのないデータがひとつ見つかった。

 それはサラが気絶したあとに取られたであろう映像だった。

 恐る恐る指をカーソルに合わせて再生する。

 少し待機時間を経たあと、パチンと画面が切り替わって動画が再生される。

『来るな、来るな来るな来るな来るな来るなぁ!』

『落ち着け、ほら、威嚇せずに近くに固まるんだ』

 そんな会話をしている間にも、ゆっくりと蛇はカメラのレンズへと近づいていていた。

『あ、あぁ……あああ』

 恐怖のあまりに失禁して泣き崩れる新人のAD。

 そんなあ間にもズルズルと音を立てながら蛇はこちらへと向かってきている。

 と思うと、瞬時にディレクターの首が吹き飛んだ。真横にいたADは何が起こったかが把握出来ず、喉の奥から漏れでた音をただただ響かせている。

 カメラマンがカメラを放置して大急ぎでその場を逃げ去った。カメラのレンズはその時点で上を向き、周囲を撮っていた見やすい映像から、少しばかり見にくい定点映像に変わった。

 何かがレンズを素早く横切る。まぁ、そんな何かなど、蛇しかいないのだが。

 頭部を素早く動かすと、蛇はカメラマンの足を加えて元のレンズの真上の位置に戻ってきた。

 なぜ足を掴んでいたのかすぐには分からなかったが、恐らく彼が転んだか、軽く小突かれて転ばされたかしてその結果なのだろう。

 カメラマンは何かをこちらに向かって叫んでいたが、それはもう言葉になることなくそのまま飲み込まれた。

 その後も次々と蛇に人が飲み込まれていく。が、一向に自分に手を出している映像は見当たらず、謎のままだった。

 最後の最後、蛇が『じぇずでぇらぁ』と謎の言葉のような鳴き声を発してその場を去っていったところで映像は録画時間を終えていた。

 すべて見終わった頃にはカメラの電池残量も残り僅かとなっていて、よくここまで持ってくれたものだとサラは素直に関心した。

 それと同時に、最後の蛇の声、言葉が、どこか懐かしく感じた。

 サラのことをシスターと呼びながら笑顔で向かってくる、妹の姿を幻視した。

「……」

 蛇に人の面影を感じるなど、もはや気が狂ったとしか思えないな、すべてやり終えたら精神科に通おう。と、サラはその場から一人歩き出す。

 街では誰ともすれ違うことはなく、皆が殺されてしまったのだろうかと思うと、かなり恐ろしい、戦後始まって以来、いや、人類史史上、最大の人類虐殺の光景ではないだろうかとサラはふと思った。

 それは絶望にくれる為の大きなきっかけとなった。自分一人では何も出来ない。渡米する手段などない。

 今更時間をかけてアメリカに戻ったところで、アメリカにも蛇たちが現れているのなら、何とかする手段なんてものは何もない。

 そして食料もなければ衛生的な環境もないのだ。彼女はそのまま死を覚悟し、その場に崩れ落ち、無気力に空を仰いだ。

『そこの女性よ、少しばかり我にお力添えを願いたい。私はこの国の神。故に滅ぼされたこの国を再興しなくてはならぬ』

 不意にそう頭上から声が聞こえたかと思うと、彼女の意識の中に何かが急に混ざりこんできた。

 ゼウス。そう名乗った神の意識は、サラの意識と溶け合うように同化して、そのまま一時的にひとかたまりの生命となった。

 それも人域を超えた神性の生命として。

 無気力になったサラの心に、ゼウスの野心的なやる気が混ざり、そちらが混ざっていたことによって体の主導権、主な意識はゼウスのものとなり、溶け合う意識の中でサラは半睡眠を繰り返す。

 最早彼女は、自分が死ななければいいとしか考えられなかった。

 そしてゼウスも、何も出来ずに殺されて言ってしまった民を守れなかったことを悔やみ、的に復讐をするための器があれば問題ないと考えていた。

 利害の一致したふたりは、そのまま各地を転々とし、生き残りの人間達を次々と1箇所にまとめあげる。その過程で自身の家族は皆死んでいることを知り、サラはひたすらに復讐心を募らせていく。

 そして、彼女たちはある場所である出会いを果たし、ある決意をするのだ。

 あの千万変化の化け物を倒すと。

 怒りに埋もれた二心の神は、最後の砦、日の本を目指して、雷雲を最高速度で走らせた。

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