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Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜

ニムル

不意に昔を思い出したんですが? 3

「あのね、エイジ……」

 何かを必死で伝えようとする姉さんの声に耳を傾け、ニュースの凄惨な光景から少しでも離れる努力をした。

「父さんと母さんが、さっき……」

 ……もう聞かずともわかった。そこまで言われれば、これだけ泣いていれば、何があったかなんて一目瞭然だ。

「爺ちゃんと婆ちゃんも……」

 俯き、ぽつりぽつりと言葉をつぶやく姉を宥めながら、俺はもう一度画面に映る男を見つめる。

 何が目的でこんなことを……殺人のための大規模洗脳なんて、何に得があるっていうんだ。

 最初はなにかのドラマかなにかと思ったが、その光景は明らかにドラマや映画などのそれではなかった。

『おいおいおい、ダメじゃあないかルカニ』

 不意に、スピーカーから少年の声が聞こえた。

『ルカニくん、滅ぼす年代を間違えてるよ。4年ほど』

『なんと!? 神よ、わたしはなんとおろかなことをぉぉ……』

 まるで苦しむかのように喉を抑えて倒れふす黒装束の男。

 瞬間、その場に少年が現れて、『改変し直すのも面倒だしなぁ……消して上書きするか』と呟いた。

『ごめんね、この子は連れていくよ。何があったかの記憶は適当に消しておくから、すぐに忘れる』

 まるで意味がわからない。唐突に茶番劇が始まったのかと思ったら男が気絶するし、少年が急に現れるし。

 細かい思考が定まらぬまま、何故か徐々に意識が遠のいていく。

 気を失う前に『神よ、我にもう一度、もう一度ノアの試練を』と叫ぶ男の声が聞こえたが、もう、そのことについて深く考えることは出来なかった。




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「おっはよー!」

 いつもと変わらない様子で姉さんが俺を起こしに来る。

 昨晩、いつの間にか2人で居間で寝てしまっていたようで、姉さんが俺を起こす時間が少しだけ早かった。

 少し記憶が混濁していて、今が何時なのかが曖昧なので、姉さんに確認をとってみる。

「姉さん、今日何日の何曜日だっけ?」

「え、そんなの、2月17日月曜日でしょ?」

「あ、そうか。今日は学校だったか。平日なのに父さんも母さんも2人ともいないなんて珍しいよね」

「……いつまでそんなこと言ってるのよ……」

「……え?」

「父さんと母さんは3年前に交通事故でなくなったじゃない……」

「……」

「……ごめん、もう思い出させないで」

 意味がわからない。俺はそんな出来事は知らないし、そもそも父さんと母さんは死んでなんか……

「っ!?」

 いきなり頭の中に、いつ見たのかわからないニュースの画面が映る。

「黒装束……」

 しばらくして、視点が姉さんの顔を移して、姉さんの声が聞こえる。

『父さんと母さんが……』




 そのふたつを見たことで、連鎖的に次々と昨日のことを思い出していく。

 なんなんだよ、これ……記憶はすぐに消える?

『記憶を消して上書き』

『神』

『時代を間違えた』

 次々と頭の中に浮かぶ聞き馴染みのない言葉たちが、今の状況を最もよく説明している気がした。




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 結局、学校でも昨晩のニュースを覚えている人はおらず、みんなが夢でも見たんじゃないかと馬鹿にしてくる始末。

 最後に覚えているのは、『ノアの試練』という単語。そして、少年が小さな木箱を持っていたこと。

 しかしそれだけで何かがわかるはずもない。

 父さんと母さん、爺ちゃんと婆ちゃん。親戚は大所帯じゃなく、みんな一人っ子だから、姉さん以外の肉親は全員殺されたことになる。

 妬ましい、憎らしい。あんな少年とイカレ頭に、大切な家族を奪われた。

 しかし、それと同時に何も出来ない自分の無力さと、心の中ですべてを諦めている、自分の諦めの良さに気づいてしまう。

「忘れたら楽になるんだろうか」

 そう思って、色々な本屋サイトで忘却術を調べ試したけれど、どれも成功するどころか記憶は濃くなっていく。

 やればやるほどドツボにハマっていく気がして、俺はその場に倒れ伏した。




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 結局、あの時の俺は、日記帳に書きなぐるという手段を用いて、吐き出すことでそれを忘れることにした。

 楽しいことに走り、自分の好きなことをして忘れることにした。

 2重の壁をそこに建てて、心をこれ以上傷つけないように蓋をした。

 こうして俺、速水映士という人間は、もうこれ以上、思い出をなくさないために、空いた穴を塞ぐ蓋にするために、物をコレクションするようになったんだと思う。居なくならない、大切なものが欲しくて。

 2年後、姉さんは高校の頃の同級生と結婚して、家の事を忘れて2人で生活を始めたいからと、遺産を置いてどこかへ消えてしまった。俺のことが重荷だったのかもしれない。

 俺は残された遺産のうち、土地と一部の家具だけを残してすべて売り払い、元手を作って東京の祖父母の家で新生活を始めた。

 転移された時、俺が神(イリア)に突っかかったのは、どことなくあの時の少年と雰囲気が似ていたからかもしれない。

 少なくとも、あの日から俺は、神と呼ばれるもの全てに一切の信頼はおけないし、信仰も完全にない。何ならぶち壊したいくらいだ。

 いつか、せめて一言くらい入ってやらなければならない。

 あの時の少年は、もうこの世界に来た時点で誰か察しがついてるんだ。

「地球神……」

 いつかあの少年に一矢報いてやる。あの日以来日記を書くことは一切なくなったが、日記帳の最後に刻むようにして書き込んだ。

 いつか忘れることがあっても、必ず思い出すことができるように。




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「あーあ、昔のことなんて思い出すもんじゃあないな……」

 復讐心に駆られて、めちゃくちゃネガティブな思考をしまくって。まるで俺じゃないみたいだな。

「切り替えないと」

 少し気を抜くとすぐに思い出してしまう昔のこと。今は何も出来ないのだから、何が出来るまでは胸の奥に閉まっておこう。

 そんなことを考えながら、俺は静かに朝食を食べ終えた。

―エイジ、ἐλπίςを目覚めさせろ―

 頭の中にうるさく響くその声を霧散させるために、シルティスやヤン兄と夜が明けるまでこのおかしな世界と地球という世界についてを語り明かした。

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