Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜

ニムル

シルティスさんそれはエグくないですか?

 剣を作り終え、ひと眠りして起きる。既にコウジとヤン兄は食事の準備を始めているようで、スープの匂いがこちらまで流れてきた。

 シルティスは、昨夜俺の作った剣を試し振りすると言って俺よりも長く起きていたので、今はぐっすりと熟睡している。寝顔だけなら愛玩動物として見れるのだが、抱えている赤黄の両刃の剣がそれをことごとく粉砕している。後で鞘作ってやらないと。

 俺がシルティスに作った剣の形は、この世界ではなかなか見ない、刃が中間で分かれる構造をとっており、その中間は柄から伸びたミスリルが綺麗に埋めている。

 先程も言ったように両刃は片方が赤、片方が黄という色合いで、見た目こそバスターソードのような感じだけれど、大きさは刀位のものだ。

「んー、お、ご主人おはよう!」

「おう、おはよう」

 俺が飯の準備のために寝袋を畳んでいると、その音でシルティスが起きたようだ。

「この剣ありがとね! 大切に使わせてもらうわ!」

「おう、壊すなよ?」

「剣の扱いに関してはご主人よりも上手いから、その点は大丈夫よ♪」

「失礼なやつだな!?」

 嬉しそうに剣を掲げるその姿は、剣を作った身としては誇らしい限りだ。きっと地球のフィギュア職人達も自分の作ったもので喜んで貰えるとこんな気持ちになるんだろうなぁ、と改めて実感する。

「ご主人、この子の名前は決まってるの?」

「ん? いや、決めてないけど」

「じゃあ、私が決めていい?」

「あぁ、問題ないぞ?」

 職人魂としては自分で名前をつけた方がいいのかもしれないが、正直自分の腕はスキルによるものであって本物の実力ではない。だから『紅羽』と『黄羽』のように、既存の名前をそのままつけるなどして自分の実力ではないのだということを明確にしようと思っていた。

 自分の中ではそれがひとつのルールというか、この世界に何かを残してしまう可能性がある場合『公に自分が作ったこういう名前の剣です』みたいに言うよりも、『スキルで作った素晴らしい剣です』みたいな方が謙虚でいい印象があるという個人的な考えだ。

 いくら3次元を半ば捨てかけているからと言って、人から反感や嫌悪の目で見られることに気づかなかったり、嫌な思いをしなかったりするわけじゃない。

 どこまで行っても俺は立体で、平面は憧れだ。平面の世界に入り込むなんてことはできない。3次元に生きる限りは人の目を気にしながら生きなければならない。

「ありがとう! じゃあ考えておくわね!」

 嬉しそうに寝袋から飛び出して剣をふりはじめるシルティス。

「前に使ってたテラマキアの剣より全然使い心地がいいわ!」

「テラマキア?」

「帝国南の魔王の事よ。精霊族のドワーフのクセして魔王になった技工士」

「そんな奴もいるのか」

 シルティスの話を聞くと、自分の中にあった魔王像がどんどんブレていく。魔王って案外みんなゴリゴリのおっさんみたいな奴らばっかじゃないんだなって最近は思う。

「とか行ってる間に……はぁ、また来たわ……」

「ん、またってなんだよ」

「えーと、元従者の子」

「今日何回目だよ、もう3人くらい追い返してるだろ」

「今度のは特段しぶといわね……」

 シルティスがそう言うと、空から黒い羽を羽ばたかせて話しかけてくる者がいる。

「暴帝様、城へお戻りください! 閃帝様がお待ちしております、お急ぎを!」

「うるさいわね、黙りなさい。今度はあなたですか、マキナ」

 マキナと呼ばれたその少女は、外見こそ大人びているものの、声色、仕草がまだ幼さを感じさせる。シルティスより年下だな、これは。

「そんな脆弱そうな人間の何がいいのですか!? 私でもそんな脆弱な人間など一撃で狩れるでしょう」

 うーん、ヲ兄さんちょっと腹立っちゃったわ。ちょっとこの子殺っちゃおうかな☆

「マキナ、やめておきなさいよ。この人はもう、ステータスが激皇を超えてるから」

「はったりはよしてください! そんなもの今ここで攻撃すればわかること。さぁ人間、塵になりなさい、『逆賊の焔』!」

「なんだなんだ、どうしたどうした!」

「なになに、どうしたの!?」

 事態に気づいたコウジとヤン兄が大慌ててこちらに走ってくる。

「俺あいつに攻撃されるらしい、今から。だからさ、ちょっと下がっててや」

「は?」

「ごめんけど、バカにされて簡単にさがれるほど、頭冷静なクール系ヲタクじゃないんだ」

 俺の邪魔をするってことは、俺と嫁の再開を遅らせるってことだからね。絶対許さん。

「そいっ」

 軽く天に向かって剣を横薙ぎし、彼女の打ってきた闇魔法の巨大な玉を真っ二つに切り落として消し去る。

「そんなっ!?」

「あんた、いきなり現れてやられるの早すぎないか?」

 それをあなたが言いますか、ヤン兄さんよぉ。

 密かにそう思っていると、シルティスが彼女に向かって手をかざして魔法を放つ。

「『魔物隷属』」

 闇属性魔法の魔力が放たれているが、『魔物隷属』の魔法は、相手に対応した魔力を空気中に撒き散らし、興奮剤を与えたようになっている状態で強制的に隷属させるというエグい魔法だ。

「……魔族のあなたがそれを使っちゃいますかね、シルティスさんよ」

「ご主人、魔族にはやらなきゃいけない時というものがあるのよ」

「ごめんけど、俺のいた世界だとそれは男限定の単語だったわ」

 そんなことを言っているあいだに、フラフラとバランスを崩して落ちてくるマキナ。そんなマキナはシルティスの腕に抱えられ……隷属を完了されました。

「ふふふ、このタイミングで来てくれたのは好都合! マキナなら使い勝手もいいしねー! 雑魚狩り用員として働いてもらって、情報も落とすだけ落としてもらうわ!」

「くっ……あの魔法が不得意な暴帝様が隷属の魔法をお使いになるとは……一生の不覚」

 おいシルティス、言われてるぞ?

「あら、いつまでもそんな口叩いていいの? ほーら、ご主人様って鳴かないと。それともあなたのウブなここをこうしてさらにこうして欲しいのかしらぁ?」

 喋り方こそ無垢を装っているが、やっていることはサキュバス同士の乳繰り合い。


「……ヤン兄、コウジ。飯食うか」

「「おう」」

 ごめんけど、今の俺にオカズはいりませんのでそのまま美味しいご飯を頂いてきます。

「あああっ、ぼうて、いっ! さま、はぁはぁ、そこはだめですぅぅぅぅぅぅ!」

 なんか変な声が聞こえてるけど、俺は知らん。

「ここが良いのかい? え? なぁ、ここがいいんだろう?」

 やることがだんだん鬼畜になってきたシルティスを放置し、俺たち3人は出発前の朝食を取るのだった。

 その後2人とも肌がツヤツヤになっていたのは言うまでもない。

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