Lv.1なのにLv.MAXよりステ値が高いのはなんでですか? 〜転移特典のスキルがどれも神引き過ぎた件〜

ニムル

《幕間》イリアの憂鬱

『はァ、いつも『送ってやるからあとのことは任せるっ!』だなんて、無責任な野郎なのです。毎度毎度こっちが大変な思いをするのです』

 あれほどまで騒々しくしていた転移者たちがいなくなり、再び神域を静寂が支配する。

 全体が白塗りの神域は奥行が測れず、イリアですらどこまで続いているかを知らない。

『いつまでこんなところに閉じ込められていればいいのですかねぇ……』

 通常ほかの世界の神は、必ず人間と同じ生活域に潜んでいるのだが、この世界は言ってしまえば世界のゴミ箱。

 最悪のゴミたちが生まれては消され生まれては消されを繰り返し、その大元である魔神と鬼神はこの世界を滅ぼすために自分を狙っている。それがわかっているからこそ、はやくあの悪神たちを倒して貰いたいというのがイリアの正直な感想なのだが、今回の転移者達にも期待できる人材は多くなかった。

 自分の世界の人間達が減るのが惜しいから、と他の世界の神達は人材派遣を拒み、唯一人材を送ってくれる地球からくる人材達は、強化しないとステータスがこの世界の平均値にすらならない穀潰しばかり。

 神域にいる間は魔力が尽きることはないとはいえ、流石に毎回穀潰しども1000人以上にステータス強化の魔力をかけるのはかなり疲れる。

『あまり期待できないですが、あのヲタクソ野郎が今回頑張って、魔王を全員倒してくれると助かるのです……』

 今までになかった、4桁というありえない数のスキルを持って異世界に転移した速水映士。

 彼の事は個人的には好きではないが、持って行った能力が強いのでそれなりには戦ってくれるのではないかと期待していた。

 あのスキルガチャは、地球の神が『うちの子たちはチート上げるとものすごい喜ぶからさぁ!』と言って置いていったもので、イリアですら中身は把握出来ていない。

 この世界にステータスやスキルシステムがあったからいいものの、なかったらどうやって魔王たちを倒すための人材を確保するつもりだったのだろう? 地球の神の意図はいつも読めない。

 あいつらが封印されているこの世界の人間ではまともに戦うことが出来ないから、ほかの世界に助けを募っているというのに。

 この世界が破壊されたら、次破壊されるのはあんたらの世界なんですよ!? と何度もほかの神々に訴えるも一考すらされずに放棄される。みんな、自分可愛さに「不条理な世界に送られた!」という反感を買いたくないのだろう。やはり厄介な人達だとイリアは思った。

 実際は、ほとんどの神たちがの宇宙を捨てているから何もする気が起きないというのが現実であり、神たちはもはや反感など一切生まれることは無いのだが、今回から生まれたイリアにとってその感情は理解できないものだった。

 新米の神であるイリアは、前任の神のすすめでこの世界で神をすることになったが、実は押し付けられた感がものすごく強い。

『おい、そこの新米! ちっといい話があるんだが受けてみないか?』

 先輩の神の頼みなので断れるはずもなく、泣く泣く許諾したのを今でも覚えている。

『あれから40年ですか……』

 普通の神にとっては短い時間でも、ひたすら待つことが多いこの世界の神であるイリアには長い時間だ。

『さぁ、そろそろあの娘を呼ぶ時間ですかね』

 ゆっくりと重い腰をあげると、魔法陣を展開して地上にいる魔族を神域に引き入れる。

「ん? ここはどこ?」

『ここは神域。私はこの世界の神、イリアなのです』

 彼女は元魔王で、自分の過去に気づいた者。

 一番魔王を倒せる力を持つもののところに送り込んで、魔王共を蹴散らしていく。そんな理想系をあのヲタクソ野郎に頼まなければならないのもまた気が引けるが、そうするしかないので頼むことにする。

『シルティス・ゲオルギウス、あなたに異能力をさずけます。魔王を倒したくば、今馬車に乗ってバルトラ・アッシャーの討伐目指して西へ進むハヤミエイジという少年に、助力しなさい』

「うわぁ、唐突ね? まぁ、女神様が言うのなら間違いはないか……分かったわ、とりあえず行ってくる」

 そう言って大して言葉を交わすこともなく、能力だけを持って去っていくシルティス。

 自分で転移魔方陣を発動させて地上に帰られる辺り、さすが元魔王と言ったところだろうか。

 それにしても……

『はァ、また1人ですか……』

 ……1人は辛いし、寂しい。この空間に長期間いられるのは神の称号を持つものだけなのでイリア以外にここに誰かが来るとすれば、時々地球の神が自分の子達を見に訪れるくらいだ。

 自分からは出ることの出来ない静けさに包まれた白い世界。

『……暇すぎるのです……久しぶりに惰眠を謳歌しますです』

 なかなか終わらない静寂に身を委ねながら、イリアは早くこの退屈な日々が終わることを願って、五日ぶりの眠りについた。

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