Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~
誰がために鐘は鳴る(1)
次々と砕かれた石炭の入った麻袋が魔王城に向けてカタパルトから放たれる。
そして――、ファイアーボールが放たれようとしたところで唐突に周囲が轟音に包まれた。
「――ッ!」
轟音と共に爆風で木の葉のように吹き飛ばされ俺は近くの木の幹に叩きつけられる。
「グハッ――。い、一体……何が……」
薄れた意識の中で俺は目を見開く。
すると、視線の先には――魔王四天王の一人、ラルググラストが立っているばかりか筋肉隆々の隊長4メートルを超えるバッファローのような角を持つ獣人の姿もある。
「ラルグ、貴様が感知した通りだったな」
「フェンマ、まずは辺境伯軍の壊滅が先だ。魔王様の復活は、そのあとだ」
「そうだな」
二人の話から俺やアルセス辺境伯軍が魔王討伐の為に動いていたのを既に知っていたようだ。
つまり、何らかの魔法が周囲に張り巡らされているか……、もしくは何らかの情報を調べるような魔法があるという事か。
「おのれ……魔族め……」
リンデールが額から血を流しながらも腰から剣を引き抜く。
「ふん! 人種が!」
ラルググラストが、その手をリンデールの眼前へと差し出す。
そして――、魔法が発動。
リンデールの体が不可思議な何かにぶつかったかのように吹き飛ばされ数十メートル後方の木にぶつかったところで血を吐きながら地面へと落下する。
「脆いな。それよりも……」
ラルググラストの視線が俺に向けられてくる。
「どうして、こんな場所に子供がいる?」
「さあな――。おい! 坊主! どうして、此処に居るか知らないがさっさと逃げることだな」
「あんた達は……、一体――、何者なんだ……」
「ほう?」
俺達のことを知らないと見える。
「我が名は魔王四天王の一人にして魔獣軍の将軍の剛力無双のフェンマ!」
「魔王四天王の一人。魔術軍を束ねる魔法王ラルググラスト!」
「魔王四天王が二人……」
「それだけかと思ったのか?」
俺の言葉を否定するかのようにラルフグラストが指先を空へと向ける。
そこには、黒い塊のようなモノが――。
「あれは……」
一瞬、黒い塊だと思っていたのは無数のワイバーンの群れ。
そして――、その中で一際、巨大な竜の存在に視線が奪われる。
「ド、ドラゴン……」
「あれは魔王四天王の一人、魔竜軍を統率する魔竜王ヴェネガ」
上空に見えるワイバーンの数だけで千は下らない。
それどころか巨大なドラゴンまで出現するなんて聞いていない。
「――さて、話はここまでだ。運が無かった。小僧! ワイバーンは肉食だからな。食われる前に、せめて我が手で一太刀のもと殺してやろう」
「くっ!?」
よくよく見れば魔法師達は襲撃を受けたことで壊滅状態。
騎士団や兵士達も襲い掛かるワイバーンの相手に劣勢を強いられている。
「アルスくん!」
そんな折に、後方からフィーナの声が聞こえてくる。
そして――、その声に気が付いたのは俺だけではなく魔王四天王の二人もそうであった。
「くるな! フィーナ!」
俺は二人の意識が此方に来るようにと大声を張り上げたが――、その行為がワイバーンからの感心も引き付けることになり――。
俺だけではなくフィーナにもワイバーンの矛先が向かう。
「――ッ!」
俺は必死にフィーナに駆け寄るが――、飛翔するワイバーンの速度の方が、5歳児の俺が走るよりもずっと早い。
そして――、ワイバーンの鉤爪がフィーナを切り裂こうとしたところで、俺は――。
「死なせない! 殺させない! 俺の――、俺の前では―――、もう!」
手を伸ばす。
それでも手は届かなくて――。
だから、俺は――。
――願う。
俺に本当に力があるのなら、いまこそ力を――。
大切な人を守る力が欲しいと――。
「坊主、もう無駄だ」
そう後ろから声が聞こえてくる。
そして――、フェンマは巨大な戦斧を俺の背中に向けて振り下ろしてくる。
「俺が死ぬのはいい! だが――! もうフィーナは殺させたりはしない! そんなクソみたいな現実を俺は認めない!」
魔法はイメージ。
想像! ――なら俺には明確に描ける。
何故なら、俺には日本のサブカルチャーの知識があるから。
それと同時に義務教育の時代に習った科学知識もある。
「ふぃなあああああああ」
彼女の名前を叫びながら俺は彼女の体を抱きしめると共に一足飛びでフィーナを襲おうとしていたワイバーンから距離を置く。
「――え? アルスくん?」
「大丈夫だったか?」
「う、うん。それよりアルスくん……体が光って……」
フィーナを助けられたという気持ちと――、それと共に無事だったという安堵から彼女に言われるまで気がつかなかった。
たしかに俺の体は白い光に包まれている。
「――な、なんだと!? こ、この俺の攻撃を避けたというのか? あんな小僧が!?」
「瞬間魔法ですか? いえ、あれは強化魔法?」
フェンマとラルググラストも何が起きたのか把握してはいないようだ。
むしろ、俺も何が起きたのか分からない。
「アルスくん、ごめんなさい。いきなりの爆発音を聞いて……」
「フィーナは、母さんと一緒に避難したんじゃないのか?」
「ごめんなさい。もしかしたらアルスくんと会えなくなるような気がして……それで……」
「そうか」
俺はフィーナを背中に隠すように二人の四天王と相対する。
「小僧。何をした?」
「さてな?」
体の奥底から湧き上がるかのような巨大な力。
その渦が、俺の体を強化し続けている。
それが何なのかまでは分からない。
それでも――。
「フィーナは、殺させはしない」
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