Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~

なつめ猫

記憶の対価(16)




「――はぁ……」

 俺は、後ろから着いてくる二人の気配を感じながら溜息をつく。

「それで、アルスくんは――」
「へー、そうなの? いつから魔法が使えたとかは――」

 何故か俺の話題で後ろでは盛り上がっているが、そういう話は本人が居ないところで会話してほしいものだ。

「あの!」
「何かしら?」
「アルスくん?」
「もう少し、緊張感と言うか! これから魔王城に入るんですから、心構えとかしておいたほうがいいと思うんですが!」
「大丈夫よ」

 アリサが、問題ないとばかりに俺の忠告を一刀両断してくる。

「大丈夫って……、その根拠は一体……」
「だって、最初は一人で向かおうとしていたってアルセス辺境伯様から聞いているわよ?」
「――うっ!?」

 たしかにアリサの言うとおり。
 俺は、最初は一人で向かう予定だった。
 彼女の言葉に無言になった俺に対してアリサは得意げな表情で「だから問題ないわ」と、俺に語りかけてきた。
 そんなアリサの言葉に反応したのはフィーナで。

「――えっ!? アルスくん、魔王城に一人で入ろうとしていたの?」
「まぁ……」
「そんなのダメだよ! アルスくんが狼を倒せるくらいの魔法を使えるのは知っているけど危ないよ!」
「そう……だな――」

 反論すると、色々と言われそうなこともあり、俺は適当に答える。
 そんな俺とフィーナに他所に一人の男が走ってくる。
 黒いマントをつけていることからアリサの部下である魔法師だろう。

「団長! お待ちしていました!」
「ええ。何か変わったことはあったからしら?」
「特にありませんが……、そちらの方が?」
「ええ、シューバッハ騎士爵のご子息アルス君よ」

 魔法師の男が俺へ視線を向けてくる。
 そこにあるのは好奇心で嫌な感じは受けない。
 すぐにアリサが男と今後のことについて対話を始める。
 俺はその様子を横目で見ながら正面に見える城へ視線を向けた。
 様相は、以前とまったく代わり映えはしないように見えるが……。 

「アルスくん」
「フィーナ?」
「ここのお城に来るまでに木々に布が巻かれていたけど、目印が無いと来られるのよね?」
「そうだな……」
「ふーん。でもアルスくんは来られるのよね?」
「そうだな……」
「もー、私の話をきちんと聞いているの?」
「聞いているよ」

 俺は小さく溜息をつきながらフィーナの言葉に答える。
話が終わったのか、アリサが近づいてくると「アルス君、向かいましょう」と、俺の手を握ってきた。



 以前、城の中に出入りしていた蔓の方に到着したところで、アリサが何かを察したのか「……ま、まさか……。ここから昇っていくの?」と、問いかけてきたので俺は彼女の問いかけに「はい」と、即答する。

「……他の場所はないの?」
「ないですね。それより、エルフなのに木登りとか苦手なんですか?」
「――ッ!?」

 俺の言葉に、アリサが自分自身の胸に視線を向けたのが分かった。
 つまり、胸が大きいから蔓を伝うのが――、木登りが苦手ということか。

「大丈夫です。僕が縄か何かで引っ張りあげますから」
「そ、そうね。お願いするわ……」
 
 彼女が頷くのを確認したあと、まず俺は一人で蔓を昇っていく。
 城壁まで上がったところで、城の中を見るが以前と代わり映えはしていない風景。
 まずは尖塔の階段へ向かう。
 
「たしか……、このへんに――」

 以前、見かけたロープを手に掴みアリサとフィーナが待っている場所へ戻る。
 二人とも俺が戻ってきたのを見て安堵の表情を見せている。
 やはり、どこかしら緊張していたのだろう。

「いま、ロープを下ろします」

 俺は、城壁の出っ張りにロープを巻いてから縛る。
 そして、ロープを下に下ろす。

「まずはフィーナからで!」
「分かったわ」

 俺の意図を汲んでくれたのか、アリサが即答してくる。
 フィーナを上げたあと、二人掛かりでアリサを城壁の上まで引き上げた。

「時が停止しているのね」

 城壁に上がって開口一番にアリサが、興味深い言葉を発してくる。





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