Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~
約束。
「お話?」
「ああ――」
俺は見下ろしてばかりだと、話がスムーズに進まないと思い岩場から降りる。
フィーナは、俺よりも一回り小さい。
年齢的には、8歳くらいのはずだ。
たしか、小学校低学年の間は遺伝子的には女性の方が精神的、肉体的に男性よりも成長するはずだ。
それなのに、俺より身体が小さいということは栄養が足りていない可能性が非常に高い。
それは裏を返せばロクな食生活を送っていないという裏打ちにもなる。
問題は、彼女をどうやって村から連れ出すかだが、正直に商業国メイビスに向かうと言ったら間違いなく彼女は、何か裏があると思うだろうし、俺の両親に話がいく可能性もある。
「ちょっと聞きたいんだが……、フィーナの家は、普段は、どんな食事をしているんだ?」
「え? 食事って……アドリアンさんが、貧しい土地だから同じ食事で頑張ろうって……言っていてアルスくんの家と同じはずだってお父さんが言っていたよ? アルスくんは聞いてないの?」
なるほど……それは初耳だ。
アルスの記憶や知識には、そのような物が一切ない。
俺が確認できるのは両親との受け答えと、あとは世界の略図のようなもの。
そして、死ぬ直前に見た力を使うさいに必要な物くらいだ。
「いや、聞いていたけど、ちょっと確認のためにな――」
……さて、どうしたものか……。
切り崩す壁としては、食事が同じなら子供が夢を見るような内容で釣るのがベストだろう。
――まてよ? たしか……。
「フィーナには妹が居たよな?」
「うん、レイリアがいるけど……」
妹の名前を口にした途端、フィーナの声が沈むのが分かる。
彼女は、ずいぶんと妹を大事に思っているようだ。
良かった、これで話が出来る。
「じつはな、商業国メイビスでフィーナの妹の病気を医者に見てもらわないか?」
「――え!?」
俺の言葉を一瞬、理解できなかったのか彼女は、口を開けて俺を見てきた。
「アレクサンダーから聞いたんだが、フィーナの妹は病気だろ? 村には医者が居ない、このままじゃフィーナの妹も治る病も治らないかも知れない。だから、一度、村を出て医者を連れてこないか?」
「――で、でも私……お金ないよ? それに子供だけじゃ商業国メイビスまで行けないし、行けても子供の話なんて聞いてくれないよ?」
「大丈夫だ、俺の母親が一緒についてきてくれるから、大人がいるから医者も着てくれるはずだ」
「――で、でもお医者さんってすごくお金かかるよね?」
「それなら、大丈夫だ! フィーナだって知っているだろ? 俺の魔法を! 俺が魔法で稼げば簡単にお金だって稼げる!」
俺の言葉にフィーナが、瞳に涙を溜めていく。
「私、アルスくんに酷いこと言ったのに……、それでも助けて……くれる……の?」
涙声でフィーナが俺に訴えかけてくる。
どうやら、俺の作戦は上手くいったようだな。
正直、母親が一緒に来るかどうかについては、許可は取っていないが俺のことを溺愛しているのだ。
お願いすれば、母親なら着いてきてくれるはずだ。
問題は、商業国メイビスに着いたら医者を呼ぶかどうかだが、そのへんは約束をきちんと守る。
医者は手配するし診療分のお金は払う。
まぁ、俺が持つ財宝から比べたら微々たるものだろう。
それに、彼女がハルスの村まで安全に到着できるように警護の兵もつける予定だ。
彼女がきちんと仕事をするのなら、俺も約束はきちんと守る。
ただ、一つ言えるのは、その頃には魔王は復活しているだろう。
魔王が復活すれば村がどうなっているかは分からない。
万が一の可能性だが、もしかしたら魔王は復活しても、小さな村だと言う事で攻撃されず生き残る可能性だってある。
そして逆に全滅している可能性だってありえる。
ただ、その変については俺の管轄外だ。
元々、俺は異世界人であり日本人だ。
ハルス村が、どんなことになろうと俺には関係ない。
そもそも何の愛着もない村のために、どうして俺が力を貸さないといけない?
魔王? 勇者? そんなのことも俺の知ったことではない。
そもそも好きで騎士爵の息子になったわけではないのだ。
それに俺の言い分も聞かずに一方的に、俺を殺そうとしてきた奴らを、どうして俺が気に掛けないといけない?
もっと言えば、婚約までしたアリサにまで裏切られるわ、とんでもない世界だからな。
約束すら平気で違える世界に、こちらが手を差し伸べる謂れはない。
「もちろんだ! フィーナは大事な人だからな」
「――え?」
俺の言葉に彼女の頬が赤く染まっていく。
アリサで気がついた。
この世界の女性は、漫画やアニメなどで恋愛を学んでいないからなのか、純真な性根を持つ女性が多い。
だから、誤解を生むような話し方をすれば簡単に、こちらが望んだように誤解する。
俺の見ている前で彼女の空のように澄んだ青い瞳には涙が溜まっていく。
するとフィーナは体を震わせながら涙声で言葉を紡いでくる。
「私……。妹が苦しんでいて寝たきりだったのに……何もできなくて……。苦しんでいるのに何も出来なくて……お父さんもお母さんも、お金を貯めていたけど、たぶん妹が助からないって内心思っていて……でも、それでも妹が苦しんでいるのをどうにかしたくて……」
「そうか……。今まで大変だったな。これからは、俺に頼るといい」
「うん! 私……私ね――!」
フィーナが感極まって何かを言おうとしていたが、俺は手を翳して彼女の言動を封じる。
あまり深入りしても面倒にしかならないと思ったからだ。
「それよりもだ。じつはな、商業国メイビスにいくためにはカタート山脈を越える必要があるんだが……」
俺の言葉にフィーナが戸惑いの表情を見せる。
ただ、先ほどまでの感極まった瞳の色は残しているように見えることから、交渉的にはベストなタイミングだろう。
「で、でも……あそこは魔物がいるって!?」
「俺の魔法があれば、何とでもなる」
そう、俺の大事な資産を持つフィーナを守るためなら魔法を使うことができるはずだ。
「そこでカタート山脈を越えるためには多くの食料や水が必要になる。それを俺が用意するから、俺が用意した物資をフィーナのアイテムボックスに入れて欲しいんだ」
「え? う、うん……」
「それと、これは他の大人には絶対言ったらダメだぞ?」
「どうして?」
「決まっているだろ? 魔物が出る山脈に行くと言ったら間違いなくフィーナの両親に止められるだろ? そしたら妹はどうなる?」
「――! わ、わかった。絶対に誰も言わない」
「約束だぞ?」
「うん!」
俺の言葉に、フィーナは神妙な顔で頷いてきた。
彼女の表情を見て、取引が上手くいったことに俺は内心、溜息をつく。
こんなに上手く話が纏まるとは思ってもいなかった。
最悪、俺を化け物呼ばわりした弱みを突いて交渉することも視野に入れていたが、それは、フィーナが言うことを聞かないときの切り札に残しておきたかっただけに助かった。
フィーナとの交渉が終わったあと、彼女の病が助かるかも知れないという希望から、別れ際に、とても嬉しそうな表情で「アルスくん、ありがとう」と涙声で俺にお礼を言ってきた。
俺は彼女の言葉に頷き返した。
家に帰る道をフィーナは歩きながら、何度も俺に手を振ってくる。
そんな彼女の後ろ姿を見ながら、俺は、何故か無償に苛立ちを感じていた。
どうして……、そんなに簡単に人を信じられるのかと――。
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