ハルス村。

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　アルセス辺境伯の辺境に位置するシューバッハ騎士爵家が治めるハルス村は、人口200人ほどの小さな村だ。
　村の戸数も、丘上に立てられた騎士爵邸から確認できるだけで戸数は60もない。

　川原から村に行くためには、一度は騎士爵邸の前を通らないといけない。
　俺はハルス村で情報収集をするため、騎士爵邸とは名ばかりの民家の前を通る。　

「アルス。どこにいくんだ？」

　丁度、騎士爵邸の前を通り過ぎようとしたところで、薪を青銅製の斧で割っていた父親と出会ってしまった。
　
「ちょっとハルス村に行こうかと……」
「――なに！？」

　俺の言葉に、父親が驚いた表情で叫ぶと、何事かと母親が物陰から顔を出してきた。
どうやら、母親は裏で洗濯物を洗っていたらしい。
俺の顔を見ると「アルス！」と言って近づいてくると抱きついてきた。

「お母さん、痛いです」
「大丈夫！　ギリギリを見定めているから！」

　何が大丈夫か分からないが父親が、呆れた様子で母親を剥がしてくれた。俺から剥がされた母親は少しの間、膨れた顔をしていたが何かに気がついたのか「それで、アルスがどうかしたの？」と父親であるアドリアンに聞くと「ハルス村に行くみたいだ」と、父親が母親に言うと「ええ！？　大丈夫なの？」と、とても心配そうな表情で俺に語り掛けてきた。

　何が大丈夫なのだろうか？
　自分が治めているハルス村に何か問題でもあるのか？
　まぁ、俺としては村から出るためにも情報を得ることが重要だ。
　そして情報を父親から得るわけには行かない。
　下手に外の情報を求めると、あらぬ疑いを掛けられる恐れがあるからな。

　あとは母親に聞いても、この世界の女性は男性を立てる習慣があり夫婦の間では情報共有が、綿密にされているように感じられる。
　つまり、母親に外の世界の情報を聞くと高い確率で俺の企みがバレ手しまう可能性がるということだ。
　本当に厄介だな……。
　
　両親から話が聞けないなら、どこから話を聞くかだが……。
　それは村の連中から聞くしかない。
　正直、アルスの知識と経験はお子様並みだから、殆ど役に立たない。
　ということで、まずは村に行くことが重要だ。
　ただ、村に行く！　と、言うだけでは許可が下りなさそうだ。
　うまく会話を誘導しなければ……。

「はい、僕は考えたのです。いつまでも、引きこもじゃなくて家に居るだけではダメだと……。友達を作らないといけないと思いまして……」

　俺の言葉に父親が、何度も頷く。
　そして母親と言えば、オロオロとしている。
　一体、普段のアルスは何をしていたのだろう？　と思わず思ってしまう。

「分かった。お前の覚悟と決意を俺は騎士爵として、そして父親として誇りに思うぞ！」
「アルス！　無理なら、すぐに帰ってくるのよ？」

　母親が涙声で、語りかけてくるがハルス村で何か問題でも起こしたのか？
　転生してから経験や知識が統合されたと言っても完璧ではない。
　所々、分からない部分だってある。
　それがハルス村で何かの要因になっていたら思うと内心溜息しかでない。

「はい、行って来ます！」

　まぁ、止められるよりはマシだろう。
　俺は、村へと続く坂道を降りていく。
　最初の家には3分くらいで到着した。
　どの家も壁も屋根も木材で作られていて、騎士爵邸と大差がないように思える。
　
「おい、アルスの野郎がきたぞ！」

　名前を呼ばれたほうへ視線をむけると、身長が俺の2周りはある男の子が立っていた。

「もう、こないと思っていたぞ？　このジャイガルド様に楯突いて安全な子供時代を過ごせると思ったら大間違いだぞ！」
「大間違いだぞ！」

　ジャイガルドの隣には、もう一人、子供が立っていた。
　その子供は、俺と同じくらいの体型で、そんなに力は強くないように見える。
　二人とも、茶色の髪に黒目で恐らくだが年齢的には、俺より少し高いくらいだろう。

「ジャイガルド様？　お前は爵位か何か持っているのか？」
「爵位……？」
「ようは、お前は貴族なのか？　と、聞いているんだが――」
「お……、お前？　アルスのくせに俺のことをお前呼ばわりなんて生意気だ！」
「そうだ、そうだ！」

　俺は、ジャイガルドの横でコバンザメのように、張り付いて俺に文句を言っている子供へと視線を向ける。

「子供A　お前は少し黙っていろ」
「ぼ、ぼくが……子供A……？　僕にはアレクサンダーって名前があるんだ！　アルスの癖に生意気だぞ！」
「アレクサンダーって……。お前は、どう見ても名前負けしているだろ？」
「名前……負け？　――難しい言葉を使うな！　どういう意味だよ！」
「言葉通りの意味だが、まぁ……それは今は置いておいて……だ。ジャイガルド、貴様が目の前で「アルスのくせに生意気だ」と言っている男は、将来、ここの領主となるシューバッハ騎士爵家の時期当主ということを理解して言っているんだろうな？　貴族に不敬を働いた場合、どうなるのか理解して言っているのか？　どうなんだ？」

　俺は、貴族風を吹かしてジャイガルドに語りかける。
　すると「そんなこと知るか！」と、顔を真っ赤にして突っ込んできた。

「まったく、これだから話が通じない子供は――」

　俺は、横に避けながら足を出して、突進してきたジャイガルドの足を引っ掛けて転ばす。
　地面の上に顔からダイブを決めた子供は、何が起きたのか一瞬理解できないようだったが、自分自身の鼻から血が出てくるのに気がつくと「覚えていやがれ！」と、言った後に泣きながら走り去ってしまった。

「はぁー……。さて、お前はどうする？　アレクサンダー」
「えへへ、アルスの旦那。僕は前から、あいつが嫌いだったんですよ。アルスの旦那ならいつか倒してくれると――」

　態度を急変させて揉み手をしながら話かけてきた子供を見て、俺は大きく溜息をついた。

「まぁ丁度いい。少し村の外について聞きたいことがあるんだが？」
「何でも聞いてください！」

　あまりにも調子がいい子供に、俺は不安しか感じなかった。