Re:現代知識チートの領地運営~辺境騎士爵の子供に転生しました~

なつめ猫

運命の岐路。 第三者side


 ――アルセス辺境伯軍の陣地の中を、アルセス辺境伯を先頭にアリサとアドリアンが進んでいく。

「それで、話と言うのは?」
「ここでは、アレだからな。まずは天幕に行くとしよう」

 アドリアンの問いかけに、アルセス辺境伯が答える。
 そのあとは無言で3人とも歩き続け、兵士達が設営したばかりの天幕に入ると、地面の上に敷かれていた絨毯の上に上がりアルセス辺境伯に勧められて設置されていた椅子に腰掛けた。

 軍事目的のこともあり、大きな木製のテーブルが置かれており、その周辺には8脚の椅子が置かれている。
 そのうち3脚にアルセス辺境伯、アドリアン、アリサが座った格好となる。

「さて、まずは……シューバッハ騎士爵領に来た目的は、先ほども話したとおり魔王を討伐、もしくは手に負えなかったときに王国軍が軍備を整えるまでの時間稼ぎのためだ」
「魔王ですか?」

 アリサが、中央に置かれているテーブルに両手を着きながら立ち上がり、アルセス辺境伯へ視線を向ける。

「魔王と言えば常識では考えられないほどの強大な魔法を操る魔族……そんなのがいると?」
「そうだ。王宮の先読み姫が、そのように神託を下されたのだ。これが、王宮から届いた書簡だ。ライガット陛下も目を通されている正式なものだ」

 テーブルの上に置かれた書簡に目を通していくアリサの顔色が変わっていく。
 
「魔王カダード……そんな、化け物が――」
「アリサ殿、魔王がいるとは、先ほど伺いましたが、そんなに危険な存在なのですか?」
「はい、間違いなく歴代最強の魔王です。あらゆる魔法が効かず、女神や神、勇者ですら倒すことが出来ず命をかけて封印するのが精一杯の正真正銘の化け物です。それで、勇者は?」
「勇者召還は失敗したと。どうやら、すでに召還されていると――」
「すでに召還されている?」

 アリサの質問に、アルセス辺境伯は神妙な表情で答えていた。

「ですが……、気になる点があります。先読みの姫からの報告ですと魔王が復活するのは5日前だったのでは? どうして、魔王が出てこないのでしょうか? 反応がないのでしょうか?」

 アドリアンの言葉に、アリサが「たしかに……魔王は生きとし生ける者を滅ぼす者。何故――」と呟いている。
 そんな二人を見ていたアルセス辺境伯は口を開く。

「これは私の推測だが、魔王は1000年以上封印されていたことで、ほぼ魔法が使えない状態なのではないのかと……」

 アルセス辺境伯の憶測を聞いたアリサは、「魔法が使えない状態?」と言う言葉にハッとした表情でアルセス辺境伯を見ると、アルセス辺境伯は頷く。

「どういうことですか?」

 要領を得ない二人の会話にアドリアンは首を傾げる。
 そんなアドリアンに向かって「私は、アルスという少年が魔王だと見ている」と、アルセス辺境伯が落ち着いた口調で諭すように言葉を紡いでいた。

「そんな、バカな!」

 テーブルを叩くようにして立ち上がったアドリアンに向かって、「落ち着いてください」とアリサは語りかけながら、「どうして、アルセス様は、そのように考えていらっしゃるのですか?」と問いかけるがアルセス辺境伯「何点か気になったことがあるのだが……」と前置きをする。

「まず、5歳の子供にしては現状把握が的確すぎる。それと私のことを、アドリアン卿の息子は理解していたにも関わらず、分からないと答えてきた。おそらくだが……」
「注目されるのを嫌がった?」
「その可能性は高い。それに……魔法指南書は魔力というより、その者の魂を推定して力を推し量るものだ。つまり魔法指南書が、魔力が無いと証明しているのなら――」
「二人とも待ってくれ! それでは何だ? アルスは……」

「そうだ。君の息子であるアルスはすでに魔王に殺されていて、成り代わっている可能性があるということだ」
「……そんなバカな――」
「最近、性格が変わったことがあったと感じたことは無かったか? 些細なことでもいい」

 アルセス辺境伯の言葉に、アドリアンは目を見開いたあと「そういえば……」と一人呟いたあと、身体を震わせている。

「たしかに……、以前はとても内向的だったが……」

 アドリアンは、2人の見ている前で額に手を当てて考えこむ。

「私が狩りに戻ってきてから、性格が少しずつ変わっていった気がする」

 アルセス辺境伯はアドリアンの言葉に「なるほど……」と頷くと「おそらくだが、魔王や魔族は精神体に近い。少しずつ君の息子の魂を食らって同化していったのだろう。魔法指南書が、魔法の才能を見抜いたのは君の息子の魂であると同時に魔王の魂でもあったのかもしれない。ただし、完全なる魔族に――魔王になってしまえば読み取ることは出来ないと言われている。

「そんな……、それでは……」
「おそらく、ほぼ間違いはないはずだ。それと――、川原の砂山を見たかね?」
「い、いえ――」

 アドリアンは、アルセス辺境伯の問いかけに、血の気が引いた表情のまま頭を左右に振る。

「アリサ、君はアルスと共に川原で魔法の修行をしていたと聞いたが?」
「はい……」
「ふむ、その様子だと君は――」
「見ました。アルスが両手に怪我をしていて……彼を抱き上げて岩場を降りた瞬間、砂になったのを……」
「アドリアン、アルスは――いや、魔王は力を取り戻してきている。完全に力を取り戻す前に、始末するしかない」
「そんな! 待ってください! 息子は!」
「先読みの姫のご神託だ。それに勇者も姿を現していない。力を取り戻してからでは遅いのだぞ?」

 アルセス辺境伯の言葉にアドリアンは苦悶の表情を浮かべると椅子に座りこんで両手で頭を抱えてしまう。

「それでアリサ。君に質問だが――」
「何でしょうか?」
「君は、アルセス辺境伯軍の魔法師団長という責務は忘れてないな?」
「忘れていませんが……、ま、まさか――」
「そうだ、アドリアンに川原まで魔王を連れてきてもらい魔王を君の魔法で始末してもらいたい。まだ力を取り戻していない魔王なら魔法防御も完全ではないからな」
「それは――」
「出来ないとは言わせない。これはアルセス辺境伯としての命令だ。一人の人間の命と国強いては人類の存続をかけたものだ。分かったな?」

 アルセス辺境伯の言葉に、アリサは必要な表情を浮かべると唇を噛み締めて「わかりました」と、だけ言葉を呟き「その前に、アルスに最後に会ってきていいでしょうか?」と言葉を紡いだ。
 彼女の言葉に、アルセス辺境伯は「手短にな」とだけ声をかけていた。




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