虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

続探索イベント その13



 空間の捻じれは危うく、下手に手を出せば体が痛みを感じる間もなく引き千切れる。
 なのでとりあえず、安全を確保できるまで移動手段の練習をしていることに。

「いちおう、器用さは999あるもんな……攻撃力というか筋力が足りないから、操るのも一苦労なんだよな」

 俺の『プログレス』ではないので、必要な能力値はほとんど適合していなかった。
 それでも器用さだけでどうにか操り、遅い速度ならば思考通りに動かせるように。

「……とりあえず、こんなところか。さて、進捗を聞こうか」

《はい。正しいルートの特定はできましたので、いつでも案内できます》

「それはどこでも可能なのか?」

《ご所望とあらば》

 うん、普通ならありえないルート特定ができるならば、空間を越えられるわけだし。
 それはそれで、一つだけやってみたいことができた。

「…………じゃあ、ゴールに行こう」

《何か、お考えが?》

「これもある種、条件に含まれているんじゃないかなって……まあ、制限時間的にもいろいろと危ういし。失敗するならそれはそれでいいし、やるだけやってみよう」

《──畏まりました。では、ルート案内を始めます》

 そうして始まった、前代未聞の空間渡航。
 こちらの世界でも、ほとんど成功したことなど無いであろう捻じれへの挑戦。

 視界に映るルートは、空間の捻じれの中をグネグネと指し示す。
 それをなぞるように『フロートアーム』を操り、進んでいく。

《過程を踏んでいるため、捻じれから至るまでの道順も長くなっております。障害もございますので、ご注意を》

「了解だ。ズルをする分、相応のリスクは付き物ってことだな」

《間違いなく……この手段が可能である時点で、世界そのものにこれを許容する余地があるのでしょう。ご注意ください》

「……本当にこれは、死にかねんな」

 顕現していた『フロートアーム』だが、俺が乗る最低限のスペース以外がすでに削られて消失している。

 元より通るだけの場所が無く、俺自身もまた服やら髪やらを何度も部分的に減らしての強行だった。

「ん? 扉があるな……アレが別の場所に繋がるのか?」

《はい、ですがアレは目的の場所ではございませんので無視します。旦那様、制限時間ですが少々ご確認を》

「……んー、おかしいなこれ」

 頭上に浮かぶカウント、一秒ごとに減っていたそれが一気に減ったりなぜか増えたりを繰り返している。

《旦那様の座標が歪み、正しく時を表示できておりません。おそらく、罠の一種としてどこかで遅延現象が起きる予定だったのでしょう。ですが、それが正常に発揮されないまま移動が続いているため──》

「おかしくなったわけか……まあ、時間がおかしくなるってのは古来から定番だ。仕様だと、0になったら強制退場だったな? それよりも早くゴールすればいい」

 どんぶらこ、どんぶらこと空間の捻じれを揺蕩い進んでいく。
 しばらくそれが続くこと、体感時間で十分ほど──目的の扉が見えてきた。


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