虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

納品揉め 中篇



 納品をしに行ったら、なぜか殺気立った視線を向けられた。
 まあ、揉めている二人をスルーして納品したからだろう。

「あはははっ、君にも苦労を掛けたねぇ」

「まったくですよ……これ、報酬の方を割り増しにしてもらっても良いのでは?」

「うん、君がそれを望むならこちらも準備するけど……本当に要るのかな?」

「……いえ、貸し一つということで」

 アレから俺は、すぐにギルド長室に呼ばれた──うん、彼らと揉めてなどいない。
 彼らは殺気立ち、俺に近づこうとした……だがそこまでだ。

「人形も、しっかりとご利用していただけているようで」

「うん。擬似スキルだっけ? アレのお陰で一時的に無力化すれば大抵の人は鎮圧できるからね。つい先日も、犯罪者に憧れたとかいう休人の集団が来たけど、スキルが使えなくてすぐに捕縛されたよ」

「…………なんてことを。休人として、代わりに謝罪します」

「うんうん、別にいいよ。その事件のお陰で人形はさらに人気になったし、いっそ定期的に問題を起こしてくれてもいいかもね。君の発明なんだ、失敗するはずがないよ」

 人形、それは戦闘系のスキルをプログラムした俺特製の魔道具だ。
 劣化させた『バトルラーニング』内の戦闘データにより、ほぼ武人級の実力を持つ。

 そのうえ、人形たちに組み込んだ魔道具の効果で周囲でのスキル発動を阻害するという厄介極まりない性質を持つ……自力で戦えない連中は、あっさりと捕縛されるわけだ。

「ところで、彼らはなぜ揉めていたので? その状況を把握できないまま、彼らに睨まれてしまったもので……」

「うーん、簡単に言うとだね。彼らは特級会員になりたかったんだけど、まだまだその条件を満たせていなかった。それだけだよ」

「たしか、私の他にももう一人、休人の方が特級会員になっていましたね」

「……正直、君とあの子とだと選定された理由が違うんだけどね。うん、二人だよ。君と同じように、他の特急会員とも顔合わせを済ませているし。していないのは君たち同士だけだね」

 いずれは会ってみたいものだが、固執することでも無いだろう。
 たしか、生活水準を上げる系のアイテムをたくさん作っているという話だったか。

「君たちの世界に在る物、在った物を次々と再現していてね。あの子の場合、ただアイデアだけを出すんじゃなくて、実際にこっちの世界での影響も考えてくれているんだ。その点が、選ばれた理由だね」

「なるほど……」

「……理屈は分からないけど、とかとりあえずこんな感じ、なんて具体性を持たないアイデアばかり聞かされていた頃は、正直君みたいな休人は居ないのかと思っていたけどね」

「あはは……なんだか、申し訳ありません」

 創作物でよくある知識チートも、この世界ではさして通じない。
 魔力やら精霊やらの影響で、現実とは異なる作用を起こしてしまうからだ。

 しかしどうやら、件の休人はその辺も考慮した発明をしているようで。
 価格は安く、人々に配慮した魔道具として売る……うん、そりゃあ認められるわな。


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