虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

プログレス問題 中篇



 最近、『プログレス』の成長も進みその分だけ厄介になってきたようで。
 いちおう言っておくと、『騎士王』にはその対策をとっくに渡している。

「『騎士王』さん、アレは使っていないのですか?」

「ああ、停止の装置か。無論、使ってはいるがいかんせん……数が足りん」

「ある程度の都市であれば、運用可能だとは思うのですが。まあ、そうなると、自動的に村や町が狙われますね」

 最初から犯罪者などの懸念はされており、その対策として『プログレス』の起動を妨げる阻害装置などは存在していた。

 ただし、強者を封ずるのに絶対など無いのと同様に、出力の問題などで封殺することは不可能だけれども。

 それでも、小物が軽犯罪を起こすために使うことは妨害できる。
 ついでに妨害装置を擦り抜ける魔道具もある……うん、これもいたちごっこだ。

「村や町全部に用意することは……まあ、できなくはありません。しかし、正直に言って無駄になるでしょうね」

「それは分かっている。だが、可能性は少しでも抑えるべきだろう」

「……それもそうですね。では、条件付けをして提供しましょう」

「条件か……言ってみろ」

 こういう場合、無償提供の方がいろいろと問題が出てくる。
 信用性云々もあるが、やはり軽視されてしまうのだ。

 魔道具だってただじゃない、使い続けるためにはメンテナンスだって必要になる。
 それらすべてを無償で得られるのは、目に見えないナニカを支払うモノだけだ。

「──失名神話の布教、そして信仰を認めさせます。教会が無い場所には建設を、ある場所にはその許しを。それを認めない限り、こちらからは何も差し出しません」

「信仰か……何を企んでいる?」

「単純な話、『プログレス』は失名神話に属する女神プログレスの管轄です。であれば、本来使用者もまた彼の女神様を信仰するのは当然ではありませんか」

「…………なるほど、上手くできている」

 要はマッチポンプ(という体)である。
 危険なのもそれを守る術も、どちらとも同じ『プログレス』に関わるもの……女神プログレスを信じさせるための糧だ。

 まあ、この世界には本当に神様が居て干渉もしてくるので難しいだろう。
 それでも、手を差し伸べないのに信仰だけしろと強要する神よりは求められるはずだ。

「いかかでしょう。どうかこの言葉、他でもない『騎士王』さんから皆さんにお伝え願えないでしょうか?」

「そのうえ、私を信用保証のために使うか。まったく、仕方の無い奴だ」

「大切なのは人々の命、また信仰を止めろとも変えろとも言っていません。失うものは何もありませんよね」

「……ハァ、承知した。これで、この話に関しては終わりだな」

 うん、物凄く不吉な予感がする。
 しかし、結界が張られてここから逃げることはできない……はい、延長戦ですね。


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