虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
生産世界初訪 その25
芸術家こと『万象戯画』、そして世界を塗り替える界画術。
直接追放されるという最悪の事態は免れたようだが、今もなお似たような状態。
生産世界で目的を果たすには、ただ逃げるだけでなくその対抗策を得る必要がある。
時間は限られている、だからこそ全力で挑む必要があった。
「──『インストール:プライベートアイ』からの“マルチリンク”」
《──“神持祈祷:ヴィジョンアイ”を起動し、『プライベートアイ』とのリンクを確立します》
生き残るため、そして相手の情報を暴き出すために必要なのは情報だ。
それを得るための『眼』、『プログレス』の中でもそれに長けた二つの能力を使う。
一人一つの『プログレス』、その原則はあろうと同期性自体は存在する。
本来なら二人以上で行うモノを、俺は独りでやっているだけのこと。
未来を見通す眼、それを複数展開して異なる時間軸の世界を観測する。
一秒、二秒、三秒……先を視れば視るほどあやふやな世界を重ねて修正していく。
「! ……これは」
「君のその眼には何が見えているのかな? でも、そのすべてが等しく正解で不正解。イメージというものは、決して途絶えることなく変わり続けるんだよ──こんな風にね」
「っ……」
高速で手を動かすと、世界は再び塗り替えられていった。
ただしそれは広範囲ではなく、俺を中心とした極小範囲でのみ。
炎が溢れ、風が逆巻き、雷が轟く。
魔法であれば長い詠唱が必要になりそうな事象も、『万象戯画』の掌の上で思うがままに描かれている。
だが、それ自体は冒険世界の『超越者』でもよくやっていた。
……問題は、それらがすべて片手で行われているということ。
現在、動かしているのは両手。
片手で俺を攻撃しつつ、何らかの現象を引き起こすべく異なる絵を描いている。
「君をそのまま追放するのは難しい。ならばどうするか……そう、それ専用の存在が居ればいいのだろう。たとえば、無抵抗な状態にする魔物とかね」
「生物の創造……そんなことまで」
「絵を描く対象は、何も自然風景だけでは無いはずだよ。むしろ、生きた存在を描くことでその再現性を高めるべく技術は確信されていった──完成だ、行っておいで」
『──』
それはスライムのような生物だった。
しかし核は存在せず、体内に文字の羅列のようなものが浮かぶ珍妙な存在。
《旦那様、あれらは魔法文字です。ルーン文字同様、一文字一文字が単体で事象を引き起こします》
「……先ほどの発言からして、私の無力化を刻みましたか」
「なるほど、察しはいいようだね。触れたが最後、君は抗う術を失う。さて、今度は何を描こうか」
再び何かを描いていく『万象戯画』。
妨害をしようにも、それを防ぐように立ちはだかるスライムモドキ……まだ、どうしようもないな。
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