虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

生産世界初訪 その23



 生産世界が一丸となって、古代遺跡から奪取した情報を魔物から守ろうとしている。
 そんな中、俺のドローンを捕まえてここに来るように連絡してきた何者か。

 俺としても大変興味があるため、さっそくそこへ向かうことに。
 ドローンを飛ばしていた場所は、古代遺跡から街まで──その狭間に待ち人は居た。

「ここ、ですね。そして、貴方が……」

 転移で訪れた俺が見たのは、一人の芸術家が絵を描いている光景。
 誰にも邪魔されることなく、ただひたすらに広がる視界の先を捉えている。

「絵はとてもいい……己自身で見た光景を、失うことなく留めておくことができる。写真のようにありのままでなくていい、それは自分だけの世界と言っても過言じゃない」

「…………」

「彼らは己の世界をどのようにしたいのか。進めたいのか停めたいのか、動きの一つひとつは見ただけじゃ分からない……それを表現することこそが、芸術家に求められること。そうは思わないか?」

「……どうでしょう。私は芸術家ではなく、どちらかと言えば商人ですので。己が手で作り上げたものを、一人でも多くの者に使ってもらいたい……ただそれだけですよ」

 俺は相手を見ているが、相手側は俺を一度も見ないまま絵を描いていた。
 だがそれでも、意識はしている……ピタリと筆を動かしていた手が止まる。

「そうかい。この世界とは、そしてここと繋がる世界とはまったく違う場所から来た。君たち休人であれば、あるいはと思った……中でも君は、『生者』と呼ばれる逸脱者。理解してくれると思ったんだがね」

「理解? 申し訳ありませんが、私は──あまり、そういった絵は好みませんので」

 俺から見えるその絵は、必死に魔物たちと戦う人々の光景が描かれていた。
 それ自体はいい──だが、その描写がかなり生々しいものばかり。

 わざわざそういった部分ばかり取り上げて描くのは、それ自体を描く価値のあるものだと捉えているから──つまり、それを望んでいると同義だ。

「死と再生を繰り返す休人、中でも無限のそれを経験しているそうじゃないか。私たちには限られた命しか無い以上、大変興味深い。ぜひとも、絵に収めたいものだ」

「止めておいた方が……と言ったところで、貴方は止まりませんね。それで、私に何をさせようというおつもりですか?」

「君が居るだけで、戦況は大きく変わった。傷は瞬時に癒え、苦しみはすぐに失われる。そして何より、死すらも消えていく……今回のテーマにそぐわぬものだ」

「……テーマ?」

 すると、取り出したペンを使い絵にサインしていく。
 それを描き終えたとき──絵が光り、周囲に魔力が行き渡る。

 何が起きたのか、それはすぐに分かった。
 繰り広げられていた戦いに、大きな変化が起こっていたから。


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