虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

生産世界初訪 その15



 魔材ギルド総本部に集まった、他のギルドの総長たち。
 彼らの目的は同じ、生産世界を訪れた冒険世界の『超越者』……もとい俺。

「で、どうしてここに来たんだ? 話をしようじゃないか」

 軽く煽りながら、魔材ギルドの総長が彼らに訊ねる。
 アポ無しの襲来だったので、それぐらいはしてもいいと判断したのだろう。

「どうしてか? はっ、笑わせるんじゃないよ魔材の。アンタの隣に居るその男、ソイツに用があるに決まってるじゃないか!」

「工匠の……」

 工匠の、つまり工匠ギルドの総長。
 この世界で担当しているのは加工系統、金属だけでなく木工などもやっており、宝石加工や果ては建築などもやっているらしい。

 担当する規模が広いため、所属している生産者も集まっているギルド中最大。
 そんなギルドの総長らしき女性は、勢いよく机を叩き魔材ギルドの総長へ叫ぶ。

「まさか抜け駆けとはね……その男にどれだけの価値があるのか、まさか忘れたとは言わせはしないよ」

「何を言うか。元より、この依頼は俺が出したもの。星との約束を、まさか破るつもりなのか?」

「それだって、アンタが勝手に進めたことだろう? 重要なのは、今この場所にソイツが居ることだけ。あとのことなんざ、子供でも分かるってもんだ」

「それを決めるのが、あの勝負だったはず。俺のやり方で歓迎する、そう決めたはずなんだが? こんなやり方をして、迷惑になるとは思わなかったのか」

 周りの総長たち──栽培ギルドと開拓ギルドの長たちも、何も反論はしない。
 同意見かはともかく、意思自体に齟齬は無いということか。

 魔材ギルドは多く魔物の素材を集める観点から、他のギルドに比べて武闘派が多い。
 その勝負とやらも、もしかしたらバトルが関わるものだったのかもな。

「ただまあ、聞いてほしい。ついさっき、確認したんだ。他の総長たちも、俺と同じく何かしらの依頼を持ってきているってな」

『…………』

「ここからはまあ、本人に言ってもらった方がいいだろう──頼む」

「ええ、任されました。初めまして皆さん、私は『生者』。冒険世界の『超越者』の一人で、生存特化の権能の持ち主です」

 相手も俺の情報は集めているだろうが、こういう場なのであえて挨拶を行う。
 名前と権能に関連性があることは、すべての『超越者』に共通する事柄。

 だからこそ、向こうも気になっているのだろう──自分たちを超える、謎の生産技術の出所を。

「予め申しておきますと、私は休人です。とは言っても普通の営業職……しがない民間企業の務め人に過ぎません。特段、生産に関する知識などはございませんが…………ある、特別な出会いをしましてね」

 誇張するような口ぶり、そして身振り手振りで語っていく。
 ……お察しの通り、この後に言う内容は最初から決まっていた。

「偉大なる我が神、創造神様……あの御方の御業によって、私は知識を授かったのです」

 昔と違い、今は割と隠さずに広めるスタンスになっている。
 その方が、創造神様が喜ぶと手紙という形で神託をくれたからだ。

 失名神話(仮)の布教こそ、もっとも喜ばれること。
 ……生産世界なのだから、それこそ一番にやるべきことだったな。


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