虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔王防衛策 その18



 休人を魔族大陸から追い返した【魔王】。
 それを見ていた俺を見張っていた彼と、魔族たちが帰ってくる前に話し合っている。

 誰も居ないところで俺が何か企むか、そういったことを調べていたのだろう。
 我が友、そう呼んでくれてはいるが……友だから全面的に信じるわけじゃないからな。

 そんな風に考えていると、玉座に潜んでいた【魔王】の一部の存在感が強まる。
 分からないようにいろいろとやっているようだが……うん、死に方が変わったからな。

「──おや、ご本人ですね」

「ほぉ、理解できるか」

「ええまあ、『生者』は他者の気配に敏感ですので」

「……ふむ、そんな権能があったのか」

 権能を簒奪する、それが【魔王】の権能。
 相手が死んだりすればその権能を失うはずだが、当代の【魔王】だけは例外……情報そのものを模倣して複製するからだ。

 ゆえに出会ったその瞬間、『生者』の権能は【魔王】のモノにもなった。
 ……だが、『生者』自体の権能はそこまで使いづらいからな。

 いちおう『生』と『死』に関する[称号]が無限に付けられるようになるし、そうじゃないモノもセット可能だ。

 本来、原人では困難な[称号]の変更も、今は『プログレス』によって行える。
 すでに対策は講じてあるので、権能の複製が更新されることは無いだろう。

 あの時と今とでは、俺もできることがだいぶ違っている。
 一番は【救星者】の存在、さすがに奪われると困ることばかりだしな。

 いつの間にか、【魔王】は完全に肉体をこの場に作り上げていた。
 そして、その腕はよく見たことのある──息子の腕になっている。

「ふむ……『ブレイブソウル』か。【魔王】が持つには、見合わない力であるな」

「使用の際はどうか注意してくださいね。特に、“オーバーブレイブ”は発動の代償として死を求められますので」

「……良いのか? 我が友、お前の息子の力なのだぞ?」

「それは私ではなく、息子本人に聞いていただけますと。元より、貴方様は【魔王】であらせられるのですから。正当な対価を得たに過ぎないのでは?」

 権能を奪う【魔王】の権能。
 だが、そこに既存の理に含まれていなかった『プログレス』は含まれていない。

 だからこそ、【魔王】が発現させたモノは『プログレス』に影響を及ぼしていた。
 他者の『プログレス』を模倣し、己の糧とする──『コピーマスター』に。

「……『プログレス』への保存は、止めておくとしようか」

「──理由は?」

「う、うむ……そう圧を強めるな。どうやらショウの求める仲間との絆、それは我が配下と築くモノとは違うようでな。影響が反映されていないようだ」

 なるほど、『ブレイブソウル』はあくまでショウのパーソナリティに基づいた力。
 魔なる存在の王として、彼らを統率する彼が定義する仲間はまた別のモノだろう。

 ──それにコピーした『プログレス』は、『コピーマスター』に入れておかずとも、自身の種族性質でいつでも取り出せる……本当に、チートな存在である。


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