虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔王防衛策 その13



 ついに出陣した【魔王】。
 その着地で砂浜が爆発したと思えるほどの衝撃が生まれ、場に静寂をもたらす。

『──我が、【魔王】だ』

 土煙が収まったとき、紡がれた宣言。
 休人たちはすぐにそちらを見て……誰もが息を呑む。

 さまざまな魔物の種族特徴を混ぜ込んだ、キメラらしき姿。
 何よりその顔立ち、冷酷さが際立つがそのすべてを許せるようなイケメンっぷり。

 休人の中には、男女問わずボーっと見惚れている者も見受けられる。
 そんな【魔王】は立ち尽くす彼らに、重みのある声で一言。

『──『這い蹲れ』』

 突如、休人たちは【魔王】の命令通り浜辺に這い蹲ってしまう。
 それはまるで、王の尊命に従う騎士たちのように。

 ……まあ、実際にはこっそり腕に生やした魔族の腕の仕業だけど。
 正確には、その腕に仕込まれた宝石型の装置の影響だ。

《あの能力は『デッドウェイト』、展開した領域内へ死亡数か殺害数に準じて重力を発生させます》

「……重力ですか、かなり厄介ですね」

 相手を動けなくする、縫い留めることに特化しているからこそ効果は強い。
 後は自分が動かずとも、魔物や魔族が勝手に処分してくれる。

 なお、『デッドウェイト』は指定した存在に限ったカウントもできるようだ。
 それを絞れば絞るほど、重力もまた大雑把な状態よりも増大する。

 現在はおそらく、種族は指定せず魔物を殺した数とでもしているのだろう。
 休人だからこそ、死を恐れない彼らだからこそその数は相当なものなのである。

『──これは警告だ。起き上がれぬ者、そして立っていようと戦意の無い者……貴様らに我と戦う資格は無い。時間を与えよう、大人しく引き返すと良い』

 立っている者は全体の一割ほど。
 その中で、戦うことができるのは半分ぐらいだろうか。

 そうじゃない者たちは、あくまで後方支援のために参加していた者たち。
 生産職、あるいは支援魔法に特化した者たち……いずれも直接戦う意思は無かった。

 何もせず、どこからともなく現れた椅子に腰かけた【魔王】。
 これは単純に、[インベントリ]の機能で保管しておいたのだろう。

 その動きに、まだ動ける者たちがどうにか船に這い蹲っていた者たちを運び出す。
 一部の者は【魔王】を睨みつけていた……が、それでも誰も逆らえない。

『ふむ……これだけか』

『…………』

『ならば、来るが良い──貴様らの力、我自ら試してやろう!』

 轟ッと放たれた魔力による威圧。
 残された休人たちは武器を握り締め、立ち向かおうとする……さあ、いよいよ決戦だ。


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