虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
第一回コラボイベント後篇 その12
ゲームとしてプレイするときはできなかった、アイテムの分離ができることを知った。
イセ村のハウジングコンテストは、ただ家具を並べるだけでは勝てないのだろう。
家の中でアイデアを練……っていたはずの俺は、現在釣りをしていた。
今なお止まない豪雨の中、荒れ狂う波の飛沫を浴びながら。
「うん、カッパを着れてよかった」
アイテムの分離。
それを行っていたのだが、クローゼットの中にちょうどそれが入っていた。
村の中に衣服屋は存在するのだが……こんな雨の中、わざわざ行くのもと思い断念。
カッパを着込み、無謀にも雨風を浴びながらの釣りを行っていた。
「ゲーム中での演出的に、雨だろうと雪だろうとある程度活動できるぐらいには整っていると思ったんだが……これ、そもそも釣れるのか微妙だな」
《いえ、そんなことはございません。水中ドローンが内部を探っておりますが、魚たちは旦那様の竿の周りに集まっているようです》
「……こっちの魚はアグレッシブなんだな。あとは、俺の技量次第か」
イセ村における釣りシステムは、ただ竿を構えていれば良いわけではない。
竿とルアーが単一の物で何でも釣れる代わりに、他の部分がシビアなのだ。
本来であれば可視化された魚影をジッと観察し、タイミングよくボタンを押す。
その後、リズムゲー感覚で何度かボタンを押すことでようやく釣ることができる。
……問題は豪雨のせいで、まったく魚を捉えることができないこと。
そして、EHO版だと釣りの難易度が魚の種類だけでなく能力値で決まっている点だ。
「器用さが高いから、感覚的に釣ることができる動きは多いみたいだが……いかんせん、力が足りないから釣るまでに時間が掛かりそうだな」
EHO版における釣りシステムは、基本的にゲーム版を踏襲してはいる。
ただし、行われていたリズムゲーを自らの体で行わねばならなかった。
脳裏で流れる音楽、そして姿勢の指示に従い適切なタイミングで竿を振る。
すると魚が弱っていき、最終的に釣り上げることができるのだ。
本来であれば、休人としてのスペックである程度楽になるし、イセ村の魔法とスキルを組み合わせればより簡単になっただろう……が、俺の場合は虚弱過ぎてそれは無理。
釣り上げるのはシステム通り、リズムゲー頼りで行うしかない。
そしてそのリズムゲーも、虚弱ゆえに難易度が高い仕様だ。
「『SEBAS』が居なかったら、絶対に釣れなかったな」
《いえ、この程度でしたら》
「……うん、この程度なんだな」
さながら自動ツール……いや、自動釣ールとでも言おうか。
すべてのタイミングをジャストに行い、荒れ狂う海からあっさり魚を釣り上げた。
……本当、『SEBAS』にとってのこの程度が俺にはできないんだよな。
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