虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

職業相談 その14



 今のままでは【大富豪】の経験値をカンスト×2の状態まで持っていけないと分かり、もう一つの職業能力を使ってみよううということになった。

 ただし、“選好投資”が恒常的な代わりに効果が微々たるものだったのに対し、もう一つの職業能力は一時的なバフ。

 ゆえに使うつもりは無かったのだが……経験値を稼ぐためだ、本当の意味でお金を浪費するしかない。

 現在行っている“選好投資”によるアイスプルへの投げ銭に加え、せっかくなので身体強化関係のバフが就かないか試してみる……ボタンの連打、辛くなってきました。

「──“放投散財”」

 お金を捨てることで、俺の能力値が飛躍的に向上する。
 乗算式も選べるのだが、今回は加算式を俺は選択したからだ。 

 捨てれば捨てるほど、能力値の補正が同額分増えていく。
 なお、乗算の場合は同額の倍率ではないので、さすがにそこまで強くはならない。

 俺の場合、基礎能力値が低過ぎるからこうして加算を選んだだけのこと。
 ……1に見える数値ですら、実際には小数点以下の数字がかなり続いた後の1だし。

「ふむふむ、あとはこれにそのまま金を注ぎ込んでいくだけだな」

 選ぶのは耐久度と敏捷力。
 力強さは要らないので、その二つだけに集中して金銭を消費していく。

 経験値稼ぎ中とはいえ、すでに職業としての経験値であればカンスト済み。
 つまり、職業能力に関しても【大富豪】内でのリミッターは外されている。

「──おっと、けどまあこうなるのか」

《一定額以上の強化は制限されているようですね。何より、制限時間が短い》

「途中まではそれなりにあったんだが……消費額に反比例して短くなっているみたいだ」

 確認してみたところ、一定額ごとに時間が減っていく模様。
 レベルがカンストし、初期時間も減衰時間もレベル1とは大違いのはずなのに。

 まあ、すでに投資額が億単位になっていたので仕方なくもあるが。
 それでも経験値はまだまだ足りず、今ようやくレベル90台に入ったところだ。

 お察しの通り、レベルが高ければ高いほど必要な経験値量は増大する。
 ……逆に言うと、世界樹関連の金銭はそれほどまでに膨大だったわけだな。

「消費中は制限時間が減らないと。まあでも増えるたびに使う金の量は増えているわけだから、この方法で引き延ばそうとは思わないよな普通」

 能力値は増えなくなったが、解除されたらまた即座に使用を繰り返す。
 投資と消費、似ているようで違う行いは何度も行われる。

 ガンガンボタンを両手で押し、二つの職業能力を同時に行使していた。
 速度が上がったお陰だろう、経験値を稼ぐ速度も上がっている。

 ──こうして、俺は【大富豪】のスキル常駐化をどうにか達成するのだった。


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