虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

職業相談 その10



 ──世界樹。

 正常な運用がされている世界であれば、必ず一本は存在する巨大な樹。
 その成長の方向性は世界によって異なり、多岐多様な変化を見せるらしい。

 アイスプルにおいては、『神・世界樹』という神との交信が行いやすくなる洞の形成をしたり、神のもたらした果実が実るような進化を遂げていた。

 だが方向性によっては、宇宙進出を補助するような進化だったり、心を繋いだり浄化しやすくなったりと……同じ世界樹でも、全然異なる存在に成ることもある。

「で、【大富豪】で投資可能なプランの中に世界樹に関する部分があるんだが。どうやら今の性質はそのままに、新しく別の方向性を加えることができるらしい」

 それなりに金銭を消費するが、世界樹の持つ可能性を開花させることができるらしい。
 実は進化の方向性にも種類があり、その一部のみが今回の対象となっている。

「たしか、武技もそんな感じで系統が分かれていたよな……似たようなものか」

《シン、テン、ケイといった単語が後続で付与されている場合が多いですね》

「うちは『神』だから、シンのシリーズが対象になっているわけだな。でも、それって先に『真・世界樹』になっていたからかもな」

 他の世界で世界樹を目にしたことは無いのだが、本来の世界樹とは存在を秘匿される。
 結界などで厳重に隠し、そのうえで守護を行う種族が配置されていることが多い。

 うちの場合はまあ……守護する存在が強過ぎるし、アイスプルに来れる者が少ないから気にしていないのだ。

「まあいいや。とりあえず、投資できるだけ投資してみようか」

 ボタンを連打して、次々と世界樹に関する項目に変化を促していく。
 そして、すればするほど世界樹が強い光を放っていき──

『おい、これはどういうことだ!』

「あ、風兎」

《クローチル様、これはですね……》

 俺の代わりに『SEBAS』が事情を説明する間も、ボタンの連打は止まらない。
 やがて事情を聴き終えた風兎は、一先ず冷静さを取り戻した。

『……なるほど。いつものようにお前が凶行に走ったのかと思ったが、間違いなかった』

「おいおい、その言い方は無いだろうに」

『だが、今回は幾分かマシのようだな。民たちが過ごしやすくなるのであれば、私も邪魔はするまい……くれぐれも、世界樹様へ害が及ばぬようにするのだぞ』

 そう言って、風兎は再びどこかへと……たぶん、森の民の下へ行ったな。
 すでに成長させた中には、『心・世界樹』という以心伝心しやすくする樹もあったし。

 ──なんだかんだ言って、アイツは民が大好きな……ツンデレ兎なのだ。


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