虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

職業相談 その09



 金の力はやはり偉大だ。
 アイスプル世界の干渉に対する防衛機構の確認をしつつ、【大富豪】の能力で世界そのものへの投資を始めた。

 その結果として、職業に関する行動経験をがっつりしたことで経験値を獲得。
 注ぎ込んだ額が額だったため、固有職でありながらすでにレベルも後半になっていた。

「SPの充填でもそれなりに改変はできていたけど、これはこれで異なる分野に注力することができるな」

 予め説明するが、【救星者】と星の管理権限で行える事象改変は、【大富豪】の支援以上に幅広く、地形に関する支援であればありとあらゆる職業を超えた変化を促せる。

 星の開拓において、他の追随を許さない手厚い恩恵が【救星者】にはあった。
 ならば、【大富豪】の利点はどこにあるのかというと……やはり金である。

 SPは星にとっての生命線……否、星命線とも呼ぶべきもの。
 その量に限界が存在し、かつやることが多い以上使い切ることはできない。

 だが、【大富豪】とリンクしたシステムはそれらの開拓に金を使えるようになった。
 文字通り、余らせるほどに持つ膨大な量の金に今、使いどころが見つかったわけだ。

「あくまで地形関係の投資だけだがな。これで住民の強化とかができたら、さすがにチート能力になるもんな」

 擬似的にそれらを行うことは可能だが、今の住民たちには無意味に等しい。
 加えて、行き過ぎた投資が滅びをもたらすように、過剰な投資にはリスクが存在する。

 要はバランスの問題だ。
 使用する金銭に限度は無くとも、受け入れる器が小さければ耐えられず……壊れる。

 それが意味するものは対象によって異なるが、総じて投資の効果が失われ、逆にしばらくの間投資されていた分野において弱体化することになるはずだ。

「今まではできなかったことも、これで思う存分できるな。とはいえ、迷宮でだいたいのことは再現しているからやることが無いのもまた事実なんだよな」

 たとえば自然に関するものなのだが、投資すれば本来生息できない植物を生息可能にする領域を展開したり、そもそも強引に生息可能にすることだって可能だろう。

 だが、それは迷宮という異空間を用いてもできること。
 というか、すでに通常では栽培不可能な植物などは迷宮で栽培中だ。

 一定の温度で保たれている迷宮は、そういうことに合っているからな。
 少しだけ無茶をして、ポイントで必要な環境を設定したお陰でもある。

「迷宮でできなかったこととなると……既存の自然に手を加えるとか、そういう感じか。あと、世界樹かな? ちょうどいいぐらいに金を掛けられるし」

 すでに『神・世界樹』と名前が壮大になっているので、できることはかなり多い世界樹なのだが……そこに手を加えるためには、これまた相応の対価が必要になっていた。

 SPは使いづらいし、ここで金銭を使えばこれまた経験値を稼げるだろう。
 打算だらけのプロジェクトが今、実行されるのだった。


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