虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

パシフィス技術 後篇



 将来的には、宇宙旅行に家族で行けたらいいなと夢を膨らませて。
 星に関する話をしてからしばらく、本題に戻ることにした。

「それじゃあ、パシフィス世界の技術を調べて得た根幹的な理を試そうか」

《畏まりました》

「冒険世界とかイベント世界なら、前段階として『星域』が必要だけど……それは省いてさっそく──『否偽領域』」

 それは住民たちが戦闘を行うために広げられた、『闘技領域』と似て非なる空間。
 内部における理を書き換え、一時的にパシフィス世界の理を強めている。

 それもこれも、【救星者】の権限があるからこそできること。
 迷宮内部に広がったその空間の中で、俺はさまざまなことを試していく。

「とりあえず、“火球ファイアーボール”……おっ、出た」

 休人ならば、そのほとんどが身に着けているであろう魔法スキル。
 過去はともかく、今の俺も超低スペックなものであればある程度自在に使える。

 ……がしかし、今はそれらの恩恵すべてをオフにした状態。
 それでも魔法が発動した、それは本来発動が『否定』されていたからだ。

「魔法とは異なる在り方で、簡易的にとはいえ物質創造なんてやるんだから驚きだよ。その分の制約はあったけど、俺にとっては無いに等しいからな」

 パシフィス世界において、一部の者たちが行えていた事象。
 それは自らを象徴する概念を、現実へと反映する行い。

「かっこよくたとえるなら──その身で示す『体現』と、知らしめる『具現』かな? あと言い伝え的に、『顕現』を当て嵌めることもできそうだけど……まっ、とりあえずは最初の二つだな」

 まずは『体現』。
 自らそのものである否定された『概念』、それを身に纏うことで身体を強化する。

 それは純粋な運動能力だけでなく、性質の強化ということ。
 要するに、炎系なら火が強くなるし、氷系なら冷やす力が強まるわけだ。

 続いて『具現』。
 こちらはもっと簡単で、その『概念』を体外に留めて発現させる。

 先ほどの“火球”はそんな感じ。
 俺では使えないという『否定』を『具現』化させることで、魔法のプロセスを無視して発現させたのだ。

「これそのものを対家族用のアイテム制作に役立てることはできないが、これでできるようになることはたくさんある」

《旦那様自身の戦闘の幅も広がります》

「まあ、それもそうなんだが……うん、就職活動を再開してみようか」

 これまで一定以上の力を出すことができなかったため、条件を満たせていなかったことも今ならば……というノリ。

 失敗したら失敗したで、まあそれはそれでというモチベーションだけども。
 やるだけやってみよう、何事も試してみなければ始まらない!


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