虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
対家族製作 その07
存在しない大陸、同じはずのムー大陸と比べても話題性の薄いパシフィス大陸。
その名と同じ世界名を有するここは、否定された概念に溢れている。
……一考するとまさにファンタジーそのものと思われそうだが、あくまでファンタジー世界におけるファンタジーな概念だ。
言っていることが分からなくなるが、要するに剣と魔法のファンタジー世界(古代より機械も存在)において、ありえないと思われる概念がここには息づいている。
俺こと人類代表(一人だけだから)は、自分以外同族の居ないこの世界で孤独に考察を続けていた。
「世界は観測され尽くしている。だからこそここは、そうなんだろうな──天動説、丸くない文字通りの盤上の世界」
レムリア世界の座標を調べて分かったことだが、休人たちが行き来することのできる惑星とはまったく異なる場所に幻想大陸たちは存在しているのだ。
次元が違う、そんな言葉が相応しい。
地図や星座表を観ながらダーツを投げていては、決して見つからない……干渉できない場所に世界が存在するからだ。
ここパシフィス世界もまた、同様に通常の方法では辿り着けない場所なのだろう。
ありえない、そう『否定』されたからこそ存在している世界なのだから。
《旦那様、空撮が完了しました。[マップ]へ情報を送信します》
「ありがとう……ほぉ、これは凄い。果ては本当に滝になっているんだな。で、これがこの世界を支えているわけだ」
ドローンが空から収集した情報を、初期地点に居ながら調べてみる。
気になったのは一番端っこ、水が最終的にどうなっているかだった。
……天動説の定番だし、仕組み的にどうなるかが謎だったのだが。
その答えは──超巨大な魔物が回収し、還元するというものだった。
「世界というより、この存在そのものの名前がパシフィスなのかもしれないな。魔物とか聖獣ってレベルじゃない、風兎たちよりも格上の星獣か」
《存在しない存在、そのためか名称などはございませんでした》
「じゃあ、仮称だが……『載星宙亀』とでも名付けようか」
映像に映っていたのは亀だった。
甲羅の上に盤状の大陸を載せて、何もない宇宙でただ生きている。
降り注ぐ水を取り込んでは、それを体内を通じて世界へ戻しているのも亀だった。
何でもありの存在なのだろう、他の世界の理を軽々と打ち砕くような亀である。
「さて、状況も分かった。そしてこのわけの分からない環境も一通り把握できた……けどこれ、人型の存在が居ないな」
《上空からの観測はできませんでした》
「……まあ、人が否定したからこその世界だし、これ以上否定するような存在を取り込みたくなかったのかもな」
だが、知的生命体が居ないわけじゃない。
生物に関しては亀以外にも発見しているので、そちらを当たってみるとしよう。
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