虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント後篇 その19



 ルリのHPは三分で尽きる。
 だがそのせいで覚悟を決めたルリは、現人神としての本領を発揮し、自らの領域を展開してしまった。

 領域内において、これまで以上にルリの望む現象が発生する。
 ジンリの『ドミネイトテリトリー』も通用せず、俺は時間稼ぎの逃亡を選んだ。

「──“神持祈祷:ヴィジョンアイ”」

 未来視の『プログレス』を代わりに起動して、『SEBAS』の解析に役立たせる。
 もう攻撃をする必要は無いのだから、逃げることに必要なものを使うだけだ。

「──『インストール:メタルスライム』」

「あら、経験値がたっぷりね」

「ただ取らせるわけにはいかないがな。御存じの通り、魔法は無効化するぞ」

「なら、『かいしんのいちげき』を当てるしかないわね」

 地味に誘導したが、実際の所魔法は一定以上の火力が有れば通っただろう。
 だがルリは俺の言葉を信じた、そして運もまたルリの言に従った法則を成り立たせる。

 要するに、魔法での攻撃が致命打にはならないということ。
 まあ、結局攻撃が当たれば死ぬことに違いは無いのだがな。

「『SEBAS』、頼んだぞ!」

《畏まりました》

「ふふふっ、なんだか面白い動きね」

 面白い、と称されたのは人体の構造を逸脱した関節無視の軟体的回避行動だ。
 一時的にスライムボディになることで、それを可能にしているわけだな。

 ただし、失敗すれば元に戻れないというデメリット付きなのだが……『SEBAS』に任せれば、その辺の心配はしなくて良いという他人任せな回避でもある。

 だがそれはもう今さらだし、生き残るための手段は選ばない。
 もし『生者』で死に戻ったら、『運悪く』当たり判定が出て終わりそうだからな。

「そーれ、それそれ♪」

「う、うおぉおおおおおお!」

 回避、回避、回避回避回避……!
 魔法は使わないルリだが、奇跡的に空から落ちてくる物体が俺に直撃しそうになるのを避け続ける。

 領域の中心であるルリに近づけば近づくほど、因果の強さもまた比例して増大するはずなのだが……だいぶ離れている今でも、かなり死にかけていた。

 やはり、『SEBAS』が居なかったら最初の辺りでもう負けていたな。
 そんな当たり前の事実を再認識しながら、それでも打開策を見出そうと足掻いていく。

「──“精辰星意”!」

「……あら?」

「よし、少しだけ効いた!」

 領域の上書き、ルリに唯一優っているレベル差によってデバフを発生させる。
 差が100以上あるため、確率は関係なく一定時間ごとにマイナス補正を引き起こす。

 そうして攻撃の速度を落としつつ、時間が過ぎるのを待つ──ラスト一分、耐え切れれば俺の勝ちだ!


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品