虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント後篇 その12



 ついに優勝したルリ……だが何ということだ、俺へと挑戦状を叩きつけてきた。
 何故だか『SEBAS』もノリノリで、俺はルリと戦うことになる。

「ほ、本気って……まさか」

「ええ──『ミス・フォーチュン』を使うということよ!」

 今まで一度も使わなかった、ルリだけが発現した特殊過ぎる『プログレス』。
 常人が使えば、ほぼすべての者が発動そのもので死ぬような使い手を選ぶ能力。

 発動した瞬間、ルリから放たれる幸福感を覚えさせる金色の波動。
 回避はできないものと知っているので、俺はそれをそのまま受け入れる。

 この『プログレス』の効果は、発動対象のLUC値をマイナスにするというもの。
 単純な能力だが、基本的にLUCの値はマイナスにできないので経験が少ないだろう。

「う、動いたら……転ぶよな?」

「ふふっ、そんなことないわよ」

「まあ、実際転ばないけどさ。でもそれ、強い奴ほど効く能力だよな」

「ふふっ、使ったこの時点でほとんどの人は自滅しちゃうのよ。アナタみたいな人や、それを乗り越えられる人だけよ」

 俺みたいな人──反転しても困らない程度のLUCしかない者や、反転後も乗り越えられる者──『騎士王』みたいな者じゃない限り、ルリへ挑むことすらできない。

 忘れている者も多いかもしれないが、俺は初期設定時に:DIY:を得る代償として、MPとDEX以外の成長性をいっさい失っている……そして、LUCの初期値は0だ。

 だからこそ、それだけなら俺でもルリと戦うことができる。
 そして、『SEBAS』が居ることを知っているルリがそれで満足するわけがない。

「──“プレゼント・フォー・チューン”」

「……何それ」

「これはね、私とアナタの運を私のLUCの分だけ下げられる能力なのよ」

「…………チートじゃん」

 ただでさえマイナスなLUC値がさらにマイナスになれば、大半のヤツは即座に死ぬ。
 ルリのLUCは万を超えている、俺のように低いから耐えていた者など絶望的だろう。

 当然、常人がそんな能力に目覚めても、自滅する速度が速くなるだけのハズレ。
 しかし、ルリだけは違う……システムの法則を超え、マイナス値に打ち勝てる。

「……せ、『SEBAS』に力を借りてもいいよな?」

「ええ、『SEBAS』君もアナタの力になりたいみたいですし……ふっふっふ、持ち得る力すべてを使い、掛かって来るが良い!」

「どこの魔王だよ……まあ、それならお言葉に甘えさせてもらうぞ!」

 ということで、『SEBAS』と二人三脚でルリに挑むことに。
 ……そうじゃないと、LUCのマイナスっぷりで動くことすらできないからな。


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