虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント後篇 その11



 ついに決着がついた。
 最高の剣士ショウと最幸の癒し手ルリ、そこだけ切り取ってみると、そうは思えないほどの激闘の果てに──勝者は。

≪勝者は──ルリ選手! なんという闘いなのだろうか、惜しむらくは、あと一歩……制限時間が足りなかった!≫

 ショウの放った光は、ルリの放った神聖魔法(強化版)を突き破り──彼女に届いた。
 だが、それだけ……倒し切ることはなく、そのまま“オーバーブレイブ”が終わる。

 強大な力の代償に、命に制限を与えてしまう文字通り命懸けの能力。
 それによって一時期はルリを超えるほどの力を得ていた……が、過ぎればオ死マイ・・・・

《ショウ選手は『ブレイブソウル』の強化を“オーバーブレイブ”には当てず、基礎能力や“チェインソウルズ”当てていました。元より、制限時間には延長が入っていませんでしたからね》

≪な、なるほど……では、もし強化していたら、勝敗は変わったのでしょうか?≫

《タイミングを選んでいれば、あるいは……また、制限時間は『プログレス』を強化していくことで、自然と延長されるでしょう》

 魔石によって成長する『プログレス』。
 だがそのシステムは、願望機であるメカドラやメカトラのシステムを、一部劣化再現しているに過ぎない。

 だからこそ、願いそのものである能力にも成長の余地がある。
 方向性を定めた強化に加え、進化……あるいは■化が可能なのだ。

 先ほど挙げたショウの『ブレイブソウル』であれば、強化条件の緩和や制限時間の延長など……魔石による強化では行えない、根本的な部分から改変される可能性があった。

《『プログレス』そのものの強化は、そのトリガーが人によって異なります。ショウ選手はこれから、それを見つけていくことで更なる力を得るでしょう》

≪こうご期待、というヤツですね! さて、優勝者であるルリ選手の下に、そろそろ向かいましょうか!≫

 俺は転移を行い、ルリの立っている舞台に降り立──つのだが、眼前になぜか突きつけられた短剣。

「あ、あの……ルリ、これは?」

「アナタ、勝負よ!」

「…………えっ、何故に?」

「えー、だって面白そうじゃない。アナタしかいないのよ、ショウやマイにこれという見本を見せることができるのは!」

 うーん……なんだろう、このゴリ押し感。
 たぶんだが、ルリもノリで言っているだけでそこまで考えていないのだろう。

《──それではただいまより、アズルルリ選手による王者ツクルへのエキシビションマッチが始まります》

「ちょ、『SEBAS』!?」

《この世界の主が、ついに力を示す。異界の現人神は果たして、【救星者】勝つことができるのでしょうか?》

「ふふっ、私が挑戦者ですって……少し、本気を出すとしますか♪」

 だが、そのモチベーションは最大値。
 間違いなく、今のルリが願えばどんなことでも叶うことだろう……俺、何回死ねば終わるのかな?


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