虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第二回家族イベント前篇 その09



 第二試合、魔物同士の戦いは制限の緩さから高い能力値によってすぐ終わった。
 そして、続いての第三試合──再び我が家から一人出場する。

≪赤コーナー、その牙はすべてを噛み砕く。よく食べよく育つ、無限の胃袋が生み出すその大食漢は、余すことなく血肉を蓄えた。食べられぬ物など無い、そう豪語する彼の名前は──[グラファイス]!≫

 転送陣から現れたのは、一匹の狼だ。
 初期から森に生息していたのだが……少しばかり、悪食だった。

 配っていた食べ物、その食べ滓なども決して逃さず食べるほど。
 アイスプルに来てからも、そうして何でもかんでも食べていった。

 そしてある時、『SEBAS』主導のあるプロジェクトに参加し……今に至る。
 今じゃ自身の欲望のままに、何でも食べている…………ただし、自分で育てた物を。

 悪食とはいえ、これまで食べていたのもかなりの割合でフルーツだったし。
 ただその中に、毒を持つ物もかなりの割合で含まれていただけだ。

 だいたい、森の民を食べるような個体だったら、風兎が容赦せず抹殺していただろう。
 そう、食そのもので周りに迷惑は掛けていないのだ……毒状態で困らせたらしいが。

≪さぁ、そして青コーナー。彼女こそが、冒険世界の最強従魔師だ! 古今東西、あらゆる獣は彼女に傅いてきた。彼女に従えられぬものはない、ただしもふもふに限るとは彼女の言──マァアアアアアアアアイ!≫

 これまたショウの時と同様、魔物たちよりもやや派手な演出が展開される。
 肉球やら犬や猫の顔のシルエットが周囲に浮かび上がり、中心へ。

 そして、大きな肉球を形作ると、やがてそれが再び散らばっていく。
 その中から、やや呆れ顔をしているマイが現れた。

「……俺も、あんな感じだったの?」

「ええ、とっても格好良かったわ!」

 観客席では、息子と妻がそんな会話を。
 うーん、俺としては文句なしに最高の演出だと思ったんだが……派手さの方をもう少し高めた方が良かったか?

 しかし、それは添え物であってメインはやはりうちの家族なわけだし。
 ……現状維持が、やっぱり一番ということで落ち着いた。

≪なお、従魔師であるマイ選手のため、特別ルールがございます。一度に出すことのできる従魔に制限はございませんが、従魔ごとにそれぞれポイントが割り振ってあります。合計数が収まるように出していってください≫

 強力なの個体を一気に出して、そのまま蹂躙というのはできない。
 数を選ぶか質を選ぶか、そこをマイに任せるというルールだ。

 そして、カウントダウンを行い──試合が始まった。


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